/地球環境も大切ですけど、まず自分の体を大切にしましょうよ。そうして、いつまでも元気で長生きしてくださいね。それがみんなの願いなんです。/
「なにか問題が?」
「むこうの壺家の写真が貼ってあるんですけど……」
「ほう、どれ、見せてくれ。おお、すごくよさそうじゃないか! 壺というが、中はけっこう広いな」
「ええ、まあ、そうなんですけれど……」
「私は気に入ったよ」
「玄関の写真、見ました?」
「玄関? 玄関って、壺の口か?」
「ええ。けっこう狭いでしょ」
「ああ、これね。リフォームして、もうすこし拡げようか? これじゃ、私は入れそうもない……」
「壺の口が長くなって、煙突みたいになっているから、熱気だけを排出できるんで、ここを大きくしたら、外の熱気が逆に入り込んで、せっかくの涼しさが台無しですよ」
「そうか……いや、だけど、きみたちの青い親族というのは、どうしてるんだ? そいつは、すっごくでっかいんだろ?」
「あいつ、体が柔らかいんで、どんなところでも、するっと抜けられるんです」
「そうなのか……」
「あの、これ、みんな、心配しているんですけれど、親分の病院の薬、また増えていませんか?」
「……」
「失礼とは思いますが、最近、見た目も、ちょっとやばいですよ」
「うーん、まあ、自覚はしているんだけどね」
「いや、だって、一年に一晩しか外に出ないなんて、究極の引きこもりじゃないですか。それで、部屋で甘いクッキーと脂肪たっぷりのミルクばっか、休み無く、ばくばくやってるでしょ。それじゃ、健康に良いわけがないですよ」
「……まあ、そうだろうな。だけど、ほら、ここは外は寒くて散歩なんかできないだろ。それもあって引っ越そうかと思って」
「そういうことだったんですか。でも、まずここでもできることからやりましょうよ。そうでないと、むこうのラクダだって、トナカイみたいに怒るだろうし、まして、じゅうたんに乗るなんて、いまの体型じゃ、ムリですよ」
「……」
「まあ、これ、ほんとはまだ秘密だったんですけどね、トナカイたちに言われるまでもなく、うちらもみんな、親分のこと、心配していて、今年のクリスマスプレゼント、じつはルームランナーなんです。それなら、家の中でも散歩とか、ランニングとかできるでしょ」
「そんなに、みんなに心配をかけていたのか」
「でも、ちゃんと使ってくださいよ。部屋に置いておくだけじゃ、意味がありませんからね」
「あ、ああ……」
「地球環境も大切ですけど、まず自分の体を大切にしましょうよ。そうして、いつまでも元気で長生きしてくださいね。それがみんなの願いなんです」
2021年のクリスマスのお話 「橋の上で」
物語
2018.12.21
2019.12.17
2020.08.01
2020.12.23
2021.04.17
2021.12.12
2022.12.14
2022.12.28
2023.12.19
大阪芸術大学 哲学教授
美術博士(東京藝大)、文学修士(東大)。東大卒。テレビ朝日ブレーン として『朝まで生テレビ!』を立ち上げ、東海大学総合経営学部准教授、グーテンベルク大学メディア学部客員教授などを経て現職。