2020年11月27日に逝去した元ザッポス社CEOトニー・シェイの追悼ブログ。12年間の交流を通して学んだ彼の人となりや、忘れがたい逸話について綴っています。今回は2008年9月に行った一週間の取材旅行。ザッポス社内に滞在し、経営陣やコンタクトセンターのオペレーターさんたちとのインタビュー、そして観察を通して「企業文化/コア・バリューのパワー」について学びました。これが『ザッポスの奇跡』の土台になりました。
ザッポスへの取材旅行に出発したのは2008年9月下旬。夏のさなかは過ぎたとはいえ、まだ残暑が厳しい頃だった。私のオフィスがあるロサンゼルスからは、ラスベガスは飛行機で飛ぶと一時間弱。いつもは飛行機で移動していたが、今回は一週間ラスベガスに滞在するということで、足があったほうが便利だろうと車を運転して行くことになった。
スタッフ二人と私の合計三人のクルーだったが、ラスベガスへの道中、忘れもしないのは砂漠の真ん中でタイヤがパンクしたことだ。ロサンゼルスからラスベガスへは高速で五時間くらい。二都市を結ぶ15番フリーウェイ上に「バーストウ」という町があり、そこを過ぎると何もない砂漠地帯が延々と広がる。そのバーストウの『イン・アンド・アウト(私の好物のハンバーガー・チェーン)』でランチを食べ、さあ一路ラスベガスへと勢いよく出発したが、ほんの10分くらい走ったところでガタガタという音とともにいやな感覚があり、道路わきに車を寄せた。
AAA(トリプル・エー:日本でいうJAF)のロードサービスを呼び、待つこと約一時間。タイヤをスペアに替えてもらって事なきを得たが、待っている間は焦って、車中の温度が上がりすぎないよう窓ガラスをタオルで覆ったりなどいろいろと工夫した。今となっては笑い話だ。
振り返れば、そういったハプニングも、「ザッポス」という会社の奇跡に触れた一週間の始まりにふさわしいものだったと思える。連日、私たちは『ラスベガスにようこそ(Welcome to Las Vegas)』という名の会議室に陣取り、朝の九時から夕方の六時までほとんどノンストップでインタビューを行った。トニー・シェイを取り巻く経営陣からコンタクトセンターで働く社員さんたちまで。まるで子供のように、すべてのことを吸収しようと貪欲に見聞きし、質問に次ぐ質問を投げかけた一週間だった。
そこでわかったことのひとつは、トニーがあまり多くを語らない人だということだった。むしろ、できるだけ周囲の人に委ね、自分ではなく他の人たちが活躍できる機会をつくろうとしていた。質問すると「〇〇に聞くといいよ」と人につなげてくれるか、「この本を読んだらいい」と本を紹介してくれることが多かった。トニーはそれまでに私が出会った誰よりも勉強家だった。そして何より実践派だった。
ザッポスをつくっていく過程で行われたことの多くは、『ビジョナリー・カンパニー② 飛躍の法則』や『Tribal Leadership』『PEAK』などといったビジネス書から学んだアイデアを彼なりに実装したものだ。読書家はたくさんいるが、多くの人が読んだだけで「学んだつもり」になってしまう。しかし「読みっぱなし」にせずに、やってみる。実践の結果である成功や失敗から学ぶ、というのがトニーの「天才」でもあった。
企業文化
2020.06.23
2020.08.20
2020.12.22
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2020.12.24
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ダイナ・サーチ、インク 代表
ダイナ・サーチ、インク代表 https://www.dyna-search.com/jp/ 一般社団法人コア・バリュー経営協会理事 https://www.corevalue.or.jp/ 南カリフォルニア大学オペレーション・リサーチ学科修士課程修了。米国企業で経験を積んだのち、1982年に日米間のビジネス・コンサルティング会社、ダイナ・サーチ(Dyna-Search, Inc.)をカリフォルニア州ロサンゼルスに設立。米優良企業の研究を通し、日本企業の革新を支援してきた。アメリカのネット通販会社ザッポスや、規模ではなく偉大さを追求する中小企業群スモール・ジャイアンツなどの研究を踏まえ、生活者主体の時代に対応する経営革新手法として「コア・バリュー経営」を提唱。2009年以来、社員も顧客もハッピーで、生産性の高い会社を目指す志の高い経営者を対象に、コンサルティング・執筆・講演・リーダーシップ教育活動を精力的に行っている。主な著書に、『コア・バリュー・リーダーシップ』(PHPエディターズ・グループ)、『アメリカで「小さいのに偉大だ!」といわれる企業のシンプルで強い戦略』(PHP研究所)、『ザッポスの奇跡 改訂版 ~アマゾンが屈した史上最強の新経営戦略~』(廣済堂出版)、『未来企業は共に夢を見る ―コア・バリュー経営―』(東京図書出版)などがある。