2020年11月27日に逝去した元ザッポス社CEOトニー・シェイの追悼ブログ。12年間の交流を通して学んだ彼の人となりや、忘れがたい逸話について綴っています。今回は2008年9月に行った一週間の取材旅行。ザッポス社内に滞在し、経営陣やコンタクトセンターのオペレーターさんたちとのインタビュー、そして観察を通して「企業文化/コア・バリューのパワー」について学びました。これが『ザッポスの奇跡』の土台になりました。
2009年7月、ザッポスはアマゾンに買収されその傘下に入ることになるのだが、その「前夜」にあたる2008年のザッポスははちきれんばかりのエネルギーでみなぎっていた。年商1,000億円にようやく手が届くくらいの規模であったのにも関わらず、靴のカテゴリーではネットの巨獣アマゾンを依然として大きく引き離していた。メディアの注目度から見ても、ザッポスは間違いなくアメリカで最も「旬」な会社だった。当時、日間売上が記録更新するたびに、ザッポニアンは記念Tシャツをつくり、トニーのお気に入りだったグレイグースのウォッカで乾杯した。全米に、いや全世界に誇れる会社をつくっているんだという気概に満ちていた。
しかしそれでいて、当時のザッポスというのは、CEOのトニー・シェイの人となりそのものの、謙虚でひたむきな会社だったのだ。ヘンダーソンという郊外の町のビジネスパーク内にあった平屋の社屋はまるで大学のキャンパスのようだった。チームが競って内装を手掛けたという会議室、オフィスの天井から所狭しと吊るされた装飾、思い思いに描かれた「コア・バリュー」のポスター・・・、社内のなにもかもが手づくりだった。無料のカフェテリアも、自由に具を組み合わせてつくるセルフサービスのサンドイッチとスープ、そして日替わりのメイン・ディッシュというシンプルなものだったが、そこにはいつも楽しげに集う社員たちの笑顔があった。ハーバード大学在籍時代にキャンパスでピザ屋を営んでいたトニーが、「昔取った杵柄」で厨房に入り、手作りのピザを社員に振る舞う日もあった。
一般のテクノロジー・スタートアップに見られるような派手さはなかったけれども、愛情にあふれていた。「この会社をみんなで守り立てていくんだ」という情熱が、その空間にいるだけでひしひしと感じられた。一度訪れたら好きにならざるをえない、愛すべき会社だった。
企業文化
2020.06.23
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ダイナ・サーチ、インク 代表
ダイナ・サーチ、インク代表 https://www.dyna-search.com/jp/ 一般社団法人コア・バリュー経営協会理事 https://www.corevalue.or.jp/ 南カリフォルニア大学オペレーション・リサーチ学科修士課程修了。米国企業で経験を積んだのち、1982年に日米間のビジネス・コンサルティング会社、ダイナ・サーチ(Dyna-Search, Inc.)をカリフォルニア州ロサンゼルスに設立。米優良企業の研究を通し、日本企業の革新を支援してきた。アメリカのネット通販会社ザッポスや、規模ではなく偉大さを追求する中小企業群スモール・ジャイアンツなどの研究を踏まえ、生活者主体の時代に対応する経営革新手法として「コア・バリュー経営」を提唱。2009年以来、社員も顧客もハッピーで、生産性の高い会社を目指す志の高い経営者を対象に、コンサルティング・執筆・講演・リーダーシップ教育活動を精力的に行っている。主な著書に、『コア・バリュー・リーダーシップ』(PHPエディターズ・グループ)、『アメリカで「小さいのに偉大だ!」といわれる企業のシンプルで強い戦略』(PHP研究所)、『ザッポスの奇跡 改訂版 ~アマゾンが屈した史上最強の新経営戦略~』(廣済堂出版)、『未来企業は共に夢を見る ―コア・バリュー経営―』(東京図書出版)などがある。