11月27日に逝去された元ザッポス社CEOトニー・シェイ氏の追悼ブログ。今回は、父、リチャード・シェイ氏とのインタビューを回想する。トニーの著書『Delivering Happiness』の中国語訳について、「ザッポスの10のコア・バリューは、トニーの成長過程で培われてきた価値観である」・・・等々。
12年にわたるトニーとの交流の中で、ひとつのハイライトはトニーのお父さん、リチャード・シェイ氏と会う機会が与えられたことだった。
2011年1月5日、私はザッポスの本社にいた。その時、リチャードがたまたまオフィスに居合わせてぜひ話をしたいといわれたのだ。当時、彼はザッポスの香港リエゾン・オフィスを切り盛りしていた。だからその日、彼がラスベガスのオフィスにいたことはまったくの偶然でありとてもラッキーなことだった。お父さんの口からトニーについて話を聞けるなんてまたとないチャンスだった。
リチャードは彼が翻訳したというトニーの『Delivering Happiness(邦題『ザッポス伝説』)』の中国語版を携えてやってきた。ただし、中国語版はただの「翻訳」ではなく、父親であるリチャードの視点からの逸話も含まれているという話だった。なるほど、ページをめくってみると、トニーの子供時代の写真が出てきた。これは英語の原書にはないものだ。彼にとってトニーが自慢の息子であることは一目瞭然だった。
「中国人の親というものは、サクセス・ストーリーを聞くときに、『親はどんな育て方をしたのか』を知りたがるものです。ですから、読者層を広げるために、親としての私の視点も加えて中国語版を作りました」
と聞いて、日本人もそうだな、やはり「アジアの親(Asian parents)」には共通点があるのだな、と思って親しみがもてた。
リチャードは私とだいたい同じ時期にアメリカにわたり、もともとエンジニアであるという点も私と経歴が似ている。イリノイ大学で博士号を取得し、カリフォルニア州立大学バークレー校でMBAを取得したというインテリである。とてもポジティブで、話好きで、気さくな人ですっかり意気投合してしまった。
リチャードとのインタビューで特に印象に残っていることがひとつある。それ以前に、トニーに「アジア系アメリカ人」としての自分の生い立ちや文化的背景が、彼の経営哲学に何らかの影響を及ぼしたと思うか、ときいたことがあった。その答えはきっぱりと「NO」だった。しかし、親の視点からどう思うか、とリチャードに聞いてみたのだ。すると、リチャードは満面の笑みを浮かべてこう言った。
「ザッポスには『十のコア・バリュー』があるが、あれは私たちがトニーに教えた価値観です。アジア人家庭がごくあたりまえに大切にしている価値観ですよね」
トニーが聞いたらきっと顔をしかめただろうと思うが、そう語るリチャードの誇らしげな様子を私はとても微笑ましく思った。
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ダイナ・サーチ、インク 代表
ダイナ・サーチ、インク代表 https://www.dyna-search.com/jp/ 一般社団法人コア・バリュー経営協会理事 https://www.corevalue.or.jp/ 南カリフォルニア大学オペレーション・リサーチ学科修士課程修了。米国企業で経験を積んだのち、1982年に日米間のビジネス・コンサルティング会社、ダイナ・サーチ(Dyna-Search, Inc.)をカリフォルニア州ロサンゼルスに設立。米優良企業の研究を通し、日本企業の革新を支援してきた。アメリカのネット通販会社ザッポスや、規模ではなく偉大さを追求する中小企業群スモール・ジャイアンツなどの研究を踏まえ、生活者主体の時代に対応する経営革新手法として「コア・バリュー経営」を提唱。2009年以来、社員も顧客もハッピーで、生産性の高い会社を目指す志の高い経営者を対象に、コンサルティング・執筆・講演・リーダーシップ教育活動を精力的に行っている。主な著書に、『コア・バリュー・リーダーシップ』(PHPエディターズ・グループ)、『アメリカで「小さいのに偉大だ!」といわれる企業のシンプルで強い戦略』(PHP研究所)、『ザッポスの奇跡 改訂版 ~アマゾンが屈した史上最強の新経営戦略~』(廣済堂出版)、『未来企業は共に夢を見る ―コア・バリュー経営―』(東京図書出版)などがある。