ダイバーシティと職能資格制度の相性の悪さ(【連載22】新しい「日本的人事論」)

画像: Takashi .M

2019.01.31

組織・人材

ダイバーシティと職能資格制度の相性の悪さ(【連載22】新しい「日本的人事論」)

川口 雅裕
NPO法人・老いの工学研究所 理事長

組織・人事に関わる全ての施策は、日本人の特性や自社の独自性への洞察なしには機能しない。それは、OSが違えば、アプリが動作しないのと同じである。欧米の真似でもない、うまくいっている会社の真似でもない、日本企業において本当に機能する組織・人事の考え方や施策について思索・指南する連載。

これを見れば、日本企業はおおむね2や3の段階にある。さらに、段階を踏んでダイバーシティを進めていく必要があるが、それには単なる啓蒙や意識改革だけでは無理がある。日本企業の伝統的な「職能資格制度」が、根本的な障害となっているからだ。

●職能資格制度とダイバーシティの相性の悪さ

職能資格制度は、特定の専門的業務やそれを実行する能力ではなく、“汎用的”な職務遂行能力の発展段階(レベル)を定めて等級化し、それに基づいて人を処遇する日本独特の仕組みのことである。欧米の職務(仕事)を基本に考える仕組みでは、「何ができるか、どんな仕事ができるか」で処遇されるが、職能資格制度では「どういう等級(レベル)の人か」で処遇がなされる。処遇の高低は、欧米では“能力”次第だが、日本では“等級”次第となる。汎用的な能力を身につけるには、経験年数が重要になる。いくら特定分野の能力向上に努め、その分野で大きな成果を上げたとしても、汎用的な能力が認められない限り職能資格制度では評価されにくく、汎用性のあるゼネラリストになるためには年数がかかってしまう。

等級の定義(評価基準)は、どんな部署・職種でも通用するような汎用的な表現にならざるを得ず、それがすべての人に適用されるわけだから、職能資格制度とはそもそも各々の違いや多様性を排除した考え方を持っている。「何ができるか、どんな仕事ができるか」ではなく、「どういう等級(レベル)の人か」で処遇されるのだから、各々が持つ強み、他の人との違いが評価の際に注目されることはない。組織運営も職能資格制度に則って行われており、部署は等級のバランスがよくなるように編成されるから、少数派は部署内に少数派として閉じ込められてしまう。女性や若手が、上位の等級者に対して委縮して働かねければならないのも、職能資格制度が原因である。

とは言え、ここまで根付いた職能資格制度を廃止すべきというのが暴論であるのは、よく分かる。職能資格制度にも、長期的人材育成、担当を超えた協力体制を組みやすい、柔軟な人事異動が可能といったメリットがあることも事実だ。仕事や担当によって給与が変わるとか、自分の能力をアピールして手を挙げて仕事を取るような行動が、日本人にできるかどうかも疑わしい。であれば、現行の仕組みの中でダイバーシティの段階を進める工夫を凝らすしかない。

●違いの価値を見つめる

ダイバーシティの5段階の3:多様性尊重段階は、「違いや多様性の存在は認めるが、それにどんな価値があるのかは分かっていない」レベルである。確かに、違いの価値、多様性の価値を理解できているか、実感しているかと問われれば多くの人が困ると思う。(私もハッキリ言葉にして言える自信がない。)日本で暮らし、日本企業でずっと働き続けてきて身に付くのは、違いに価値があるという発想ではなく、他者との違いを修正しようとする習慣だからだ。多様性に価値があるというよりも、同質性、全員一致に価値があると考えてしまう。異なる意見があっても、空気を読んで言いたいことをグッと飲み込むのが大切というのが日本人の流儀である。他者とは違うことを明らかにするのは勇気がいるし、場合によっては恥ずかしくも感じる。分離・統合の段階に進むには、このような習慣やマインドを乗り越えなければならない。

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川口 雅裕

NPO法人・老いの工学研究所 理事長

高齢期の心身の健康や幸福感に関する研究者。暮らす環境や生活スタイルに焦点を当て、単なる体の健康だけでなく、暮らし全体、人生全体という広い視野から、ポジティブになれるたくさんのエビデンスとともに、高齢者にエールを送る講演を行っています。

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