組織・人事に関わる全ての施策は、日本人の特性や自社の独自性への洞察なしには機能しない。それは、OSが違えば、アプリが動作しないのと同じである。欧米の真似でもない、うまくいっている会社の真似でもない、日本企業において本当に機能する組織・人事の考え方や施策について思索・指南する連載。
ドラッカーが盛んに強調したように、個人にとっても組織にとっても、「強み」は非常に重要である。個人にとっては、強みこそが組織における存在意義であり、組織への貢献や良質なキャリアを積み重ねるための手段である。強みがなければ存在意義は希薄になるし、貢献の機会も少なくなるから、キャリアも平凡なものに終わってしまう。組織にとっては、多様な(バラバラの)強みを持つ個人が集まることが重要で、個々が持つ強みが多様であれば、多様な顧客への対応力が高くなり、環境変化に耐える力も強くなる。同じような強みを持つ人を揃えても、顧客の多様性には対応が難しいし、環境変化にももろい。(個々に大した強みがなければ、余計にそうだ。)『強みに集中せよ』は、このような意味である。
そんなことは改めて言われなくても当たり前と感じるかもしれないが、実際に「あなたの強みは何か?」と問われて、即答できる人はかなり少ない。自分の強みについて、しっかり考えたことのない人が圧倒的に多いのが現実だ。これでは、個人としてどのように組織に貢献するかが明確にならないし、強みが曖昧な人たちをマネジメントしなければならない立場の人も難しい。こうなってしまう根本的な原因は、強みがなくても、曖昧であっても仕事と報酬を与えられる日本特有の「正社員制度」にあるが、正社員だから強みを考えてなくてもいいということにはならない。「私の強みは何か?」を問い、言語化して自覚することが、組織への貢献度を高め、優れたキャリアを築くためには最も効果的な方法であるからだ。
では、強みとはどのようなものだろうか。
第一に、差異化されている必要がある。強みは、それが珍しいほど価値が高い。多くの人と同じような分野の知識・技術で、それが多くの人と同じようなレベルであっては強みとは言えない。同じ分野であるなら、その量が違わなければならない。たとえば、普通の人のその分野の知識量が10なら、自分は20にすることだ。多くの人が知らない分野の知識を身に付けるという発想も大切になる。量で差をつけるのではなく、質を変えるというアプローチである。ついつい、皆が知っていることを知ろう、皆ができることを出来るようになろうと考えがちだが、それは強みを作るという発想ではない。独自の製品を作ろうと考えるとき、「他社より安く、他社より小さく、他社より機能を豊富に」といった量で勝負する視点と、「他社商品とは異なる意味やストーリーやデザインを」と質を変える視点があるが、これと同様、自らの差異化を図ることである。
新しい「日本的人事論」
2018.12.13
2019.01.31
2019.02.27
2019.03.20
2019.03.28
2019.04.20
2019.05.16
2019.06.27
NPO法人・老いの工学研究所 理事長
高齢期の心身の健康や幸福感に関する研究者。暮らす環境や生活スタイルに焦点を当て、単なる体の健康だけでなく、暮らし全体、人生全体という広い視野から、ポジティブになれるたくさんのエビデンスとともに、高齢者にエールを送る講演を行っています。