組織・人事に関わる全ての施策は、日本人の特性や自社の独自性への洞察なしには機能しない。それは、OSが違えば、アプリが動作しないのと同じである。欧米の真似でもない、うまくいっている会社の真似でもない、日本企業において本当に機能する組織・人事の考え方や施策について思索・指南する連載。
日本企業の「従業員エンゲージメント」は、世界で最低レベルにあるそうだ。熱意を持って主体的に仕事に取り組み、ワクワク・イキイキしながら、成果を出して組織に貢献しようとするような従業員の割合は、世界でもっとも少ないレベルにあるという。米国の調査会社ギャラップによれば、エンゲージメントの高い「熱意あふれる社員」の割合は、米国の32%に対して、日本企業はわずか6%。「やる気のない社員」は約70%に上るらしい。もちろん、アンケートに回答する姿勢が日本人はあいまいで控えめになりがちだから、額面通りには受け取れない。が、それでも日本企業の従業員エンゲージメントの低さは実感するところであり、いくつも理由が思い当たる。
一つ目は、時間と賃金がリンクしている結果、従業員は「内容の希薄な時間」を職場で過ごさざるを得なくなっていることだ。日本企業では、一部の管理監督者を除けばいくら能力があっても、短時間で成果を出しても、9時から17時まで会社にいなければ賃金を控除されてしまう仕組みになっている。早く仕事を片付けても、短時間で成果を出しても、決められた時間は職場にいて、仕事に従事しなくてはならない。その結果、能力が上がっても、業務が効率化されても、実際には「決められた時間を満たすようにゆっくりと仕事を進める」ようになってしまう。これが生産性が高まらない最大の理由なのだが、こうして生まれる「内容の希薄な時間」がエンゲージメントも低下させてしまう。
時間と賃金がリンクし、9時から17時まで会社にいれば基本的にOKという仕組みは、従業員を、能力を存分に発揮する必要もない、夢中になって集中して取り組まなくてもよい、という意識にさせてしまう。あれこれと忙しく、テキパキと進めなければ間に合わない、期待に応えられないといった緊張感もなくなってくる。だから達成感も得にくい。「決められた時間を満たすように」会議も長くなりがちだし、必要かどうか分からないような業務が「生産」されていくこともある。時間対応型の賃金制度は、熱中や夢中や集中とは縁遠い「内容の希薄な時間」を生む。これが生産性が低い理由だが、生産性の低さがまた従業員のエンゲージメントを低下させ、さらに「内容の希薄な時間」を再生産していくような面もあるから、悪循環が起こっているとも言えるだろう。
二つ目は、オーバー・コンプライアンスである。社内外で何か起こるたびにルールが作られ、手続きやチェック・監視が増えていく。少しでもリスクがある試みは、排除されるようになる。あれをするな、これをするなと禁止するルールばかり作って守らせようとする企業の姿は、まるで小中学校のようだ。ルールを作って監視強化をしたからといって不正や不祥事が減るわけではない、というのは起こり続ける大企業の様々な事件を見ればすでに明らかになっている。トップが謝罪の会見で口にするように、不正・不祥事の原因はモラルハザードなのであり、対策は良質な組織風土づくりに尽きる。ところが、依然として過剰な規制をしつづけているのが実際だ。そして、オーバー・コンプライアンスはノー・チャレンジにつながっていく。
新しい「日本的人事論」
2018.11.17
2018.11.29
2018.12.13
2019.01.31
2019.02.27
2019.03.20
2019.03.28
NPO法人・老いの工学研究所 理事長
高齢期の心身の健康や幸福感に関する研究者。暮らす環境や生活スタイルに焦点を当て、単なる体の健康だけでなく、暮らし全体、人生全体という広い視野から、ポジティブになれるたくさんのエビデンスとともに、高齢者にエールを送る講演を行っています。