組織・人事に関わる全ての施策は、日本人の特性や自社の独自性への洞察なしには機能しない。それは、OSが違えば、アプリが動作しないのと同じである。欧米の真似でもない、うまくいっている会社の真似でもない、日本企業において本当に機能する組織・人事の考え方や施策について思索・指南する連載。
創意工夫や新しい取り組みは前例がないから、常にリスクをはらむのは当然だ。でも、リスクはすべて排除すべきというルールの番人は、それを許さない。やるなら、絶対にうまくいくことを論理的に説明してくれ、となる。やってみなければ分からないなどという物言いは、聞いてもらえない。こうして、多くの挑戦が排除され、挑戦者もだんだんと減っていく。挑戦がないところには、無事はあるが成功はない。成功がなければ、喜びもない。オーバー・コンプライアンスは、従業員の挑戦を阻み、成功の喜びを味わわせない組織を作ってしまう。もちろん挑戦には失敗もつきものだが、結果がいずれであっても、挑戦する姿勢は主体的であり、そのプロセスは人を夢中にさせる。旧態依然の業務遂行を無難に進めることばかりが求められる組織で、エンゲージメントが高まるはずはない。
三つめは、複雑な組織形態によるストレスの多さである。日本の企業組織は、国の人口構成と同じようにピラミッド型を維持できなくなって、つぼ型になっている。定年退職の年齢が伸び、若年層の採用が少なくなった結果だ。それでも、必要なポストに期間を決めて任用するような仕組みなどで、役職者を必要最小限にし続けられれば、ピラミッド型の組織にできるので問題は小さいが、日本の場合、役職がミッションではなく「資格の取得」のようなインセンティブになっていることも多く、役職者に昇進すればずっと役職者でいつづける仕組みの会社がほとんどである。役職者の数に合わせて、部や課が出来たりもする。したがって年齢構成だけでなく、役職や職階の人数構成も、つぼ型になってしまっている。部署や役職者が、必要以上に多い状況なのである。
部署や役職者の多さは、コミュニケーションを複雑にする。誰に何を、どのようなタイミングで伝えるかを常に、考えなければならない。「これは、○○さんの耳に入れておいて」「○○さんに、相談したほうがいいのではないか」といった会話が多くなり、皆が誰に対して報連相すべきかを考えながら仕事を進める。会議も多いし、関係者同士の人間関係だって気になる。報連相をすればそれぞれのリアクションがあるから、またそれらを調整しなければならない。このような複雑なコミュニケーションを心から重要で楽しいと思っているのならいいのだが、実際にはほとんど全員が「大変だ」「面倒くさい」と感じている。多すぎる役職者が原因の複雑なコミュニケーションは、従業員の大いなるストレスとなっており、これがエンゲージメントを低下させる一因となっているのである。
新しい「日本的人事論」
2018.11.17
2018.11.29
2018.12.13
2019.01.31
2019.02.27
2019.03.20
2019.03.28
NPO法人・老いの工学研究所 理事長
高齢期の心身の健康や幸福感に関する研究者。暮らす環境や生活スタイルに焦点を当て、単なる体の健康だけでなく、暮らし全体、人生全体という広い視野から、ポジティブになれるたくさんのエビデンスとともに、高齢者にエールを送る講演を行っています。