組織・人事に関わる全ての施策は、日本人の特性や自社の独自性への洞察なしには機能しない。それは、OSが違えば、アプリが動作しないのと同じである。欧米の真似でもない、うまくいっている会社の真似でもない、日本企業において本当に機能する組織・人事の考え方や施策について思索・指南する連載。
同じ人たちがそれぞれ同じ業務・役割を、目的を変えず、何も学ぶことなく、同じルールや手続きや空気に従って行っている組織には、当然ながらシナジーが生まれない。それまでよりも大きな成果、良質なアウトプットなどを得るためには、「もっと頑張れ」「もっと工夫せよ」といった叱咤激励ではなく、具体的な変更がマネジメントには求められる。
もっとも分かりやすいのは「人を替える」ことだ。同じ人が同じ役割や担当業務をやりつづけると、たいていの場合、アイデアが枯渇して機能が低下したり、属人的になってブラックボックス化したり、飽きやマンネリ化によってパフォーマンスが落ちたりする。したがって、一時的な生産性の低下やリスクの高まりを恐れず、人事異動や担当を変更していく必要がある。これができるのが大企業の強みだ。大企業では、役割と人の組み合わせはいくらでも考えられる。中小企業ではその必要を自覚していても、役割と人の組み合わせが限られてくるから、柔軟な人事異動や担当変更が難しいのが現実である。
「人を変える」のも重要である。多様なインプットを行う機会を提供し、刺激を与えつづけることで、それぞれの役割や日常業務に関する変化を促していく。人は経験や場数で成長していく一方で、経験を積めば積むほど、場数を踏めば踏むほど先入観にとらわれやすくなり、過信が生まれ、アイデアも出にくくなってくるものである。これを防ぐのが、日常の業務を離れた学びだ。「人を替える」よりも時間がかかるし、効果も見えにくいケースが多いが、これは組織の大小にかかわらず可能で、継続すれば「人を替える」よりも、企業の競争力に寄与する可能性も高いだろう。
「目的を変える」のも効果が期待できる。その仕事の意味、自分たちの顧客や使命の定義づけ、ビジョンやパラダイムを定めるといったアプローチを行う。人の行動はその目的に依存しているから、「誰のために、何のためにやっているのか」を明文化して納得・共感を得られれば、役割行動や業務行動も変わっていく。同じ仕事をしていても、自分を“ブローカーだ”と思っている人と、“ソリューションの提供者だ”と思っている人では、顧客対応も提案内容も大きく異なる。少し前にトヨタのトップが「クルマを作る会社から、モビリティ・サービスの会社に変わる」と発言したが、このような企業ドメインの定義も実務者たちの思考を変えていくはずである。
そのほかにも「ルールを変える」「技術を変える」「コミュニケーションを変える」といった方法が考えられる。硬直化した、前時代的な、肥大化したルールや規制・手続き・フォーマットを改廃し、合理的で必要最小限なものにする。業務に用いている古い機器を入れ替える。会議・説明・議論、報連相、対話・面談など、様々なコミュニケーションのありようを見直したりスキルの向上を図ったりする。5人でやっていた仕事が、3人でできるようになる。5人で出していた成果の質や量が、どんどんと増えていっている。これが、シナジーが発揮されている状態である。それには、以上の6点の観点から具体的な変更を実施し、シナジーが生まれやすい組織開発を進めていくのが重要だ。
新しい「日本的人事論」
2018.09.19
2018.10.10
2018.11.17
2018.11.29
2018.12.13
2019.01.31
2019.02.27
NPO法人・老いの工学研究所 理事長
高齢期の心身の健康や幸福感に関する研究者。暮らす環境や生活スタイルに焦点を当て、単なる体の健康だけでなく、暮らし全体、人生全体という広い視野から、ポジティブになれるたくさんのエビデンスとともに、高齢者にエールを送る講演を行っています。