シナジーを発揮するための6つの視点(【連載19】新しい「日本的人事論」)

画像: Jun K

2018.11.29

組織・人材

シナジーを発揮するための6つの視点(【連載19】新しい「日本的人事論」)

川口 雅裕
NPO法人・老いの工学研究所 理事長

組織・人事に関わる全ての施策は、日本人の特性や自社の独自性への洞察なしには機能しない。それは、OSが違えば、アプリが動作しないのと同じである。欧米の真似でもない、うまくいっている会社の真似でもない、日本企業において本当に機能する組織・人事の考え方や施策について思索・指南する連載。

●シナジーを生み出すコミュニケーション

これらの中で、もっとも漠然としていて分かりにくいのが「コミュニケーションを変える」だろう。コミュニケーションはあまりに日常的だし、多少の苦手意識を持つ人はいても、自分のコミュニケーションがそんなにダメだと思っている人は少ないからだ。実際、具体的な課題を持って改善を図っていたり、高いレベルのコミュニケーション・スキルを学んだりしている人は少ない。「コミュニケーションを変える」と言われても何をどう変えるかはピンと来ないだろう。シナジーを発揮するためのコミュニケーションは、「発信」がポイントである。発信といっても、しゃべるという意味ではない。

シナジーを発揮するコミュニケーションの第一段階は、「興味・関心の発信」である。そして、相手に対する興味・関心を発信する方法は、「訊く」(質問する、尋ねる)ことと、「聴く」(洞察的・受容的な姿勢で耳を傾ける)ことに尽きる。「訊く」は客観情報だけでなく、相手の思考・感情の中身や意見まで質問するのがポイントとなる。客観情報を把握したいだけの質問は、(知っていれば誰に尋ねても同じ回答になるから)相手に対する興味・関心を発信したことにはならない。後者の「聴く」では、適切なリアクションが欠かせない。向き合わず、無表情で反応もしない人に対して、話す気にはならないからだ。うなづきやあいづちがあり、言葉だけでなくその真意をくみ取りながら、見られている意識を持って最後まで耳を傾ける。このようにして発信された「興味・関心」は、相手の話す意欲を刺激し、後の効果的な合意形成に結びついていく。

第二段階は、「共感と違和感の発信」である。効果的な質問を重ね、洞察的・受容的に耳を傾けて受け取った内容に対して、「同意する点や一致する点」と、「相違点や自分の考え方とは異なる点」の両方を整理して述べる。相違点のみに焦点を当てた発言をしてしまい、まるで全ての点で意見が異なっているような議論になるケースは多いし、その結果、合意形成への意欲が低下してしまうのは、もったいない。さんざんしゃべったあとで、「あれ?じゃあ、だいたい一緒なんじゃないの」となるのは非効率だ。何が同じで、何が異なるかをしっかり表明し、確認する。その上で、相違点だけにフォーカスするのが重要である。

第三段階は、「意欲と信頼の発信」だ。これは、「案を出し合う」ことと、「合意を確認しあう」ことで可能になる。相違点にフォーカスしたら、どのようすれば相違点を解消できるか、どのようにすれば両者が満足できるかという観点から、アイデアを出していく。win-winの追求である。もともとは両者ともに考えていなかった第三案を、互いに出し合い、これを修正しつづける。そうして出来上がった案について、合意できたことをしっかり確認する。実行を約束する。相手の案を待ち、それを評価・判断するだけの受動的な姿勢ではない。否定されることを恐れず、何としても相違点を解消できる案を生み出そうとする姿勢は、合意への意欲と相手への信頼が感じられる。

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川口 雅裕

NPO法人・老いの工学研究所 理事長

高齢期の心身の健康や幸福感に関する研究者。暮らす環境や生活スタイルに焦点を当て、単なる体の健康だけでなく、暮らし全体、人生全体という広い視野から、ポジティブになれるたくさんのエビデンスとともに、高齢者にエールを送る講演を行っています。

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