組織・人事に関わる全ての施策は、日本人の特性や自社の独自性への洞察なしには機能しない。それは、OSが違えば、アプリが動作しないのと同じである。欧米の真似でもない、うまくいっている会社の真似でもない、日本企業において本当に機能する組織・人事の考え方や施策について思索・指南する連載。
「違い」の価値が難しければ、「同じ」にどれくらいの価値があるかを考えてみるのも意味がある。「同じ」同士を交換しあっても何も状況は変わらないから、交換することに価値はない。全員がまったく同じオモチャを持っていたら、誰も交換して欲しいと思わないから、そこでは持っているオモチャに価値はない、というのと一緒だ。また、「同じ」モノを持っているなら、誰が使っても同じ結果にしかならないから使用価値(有用性)もない。そして「同じ」には、希少価値もない。こうしてみると、「同じ」には軋轢が起こらないという意味くらいしかなく、逆に、「違い」には交換価値・使用価値・希少性があるはずで、それを見出そうとする態度が必要だと考えられる。
そもそも、本当に「同じ」なのか?、という問いも欠かせない。厳密に一点の違いもない「同じ」という状況が、そんなにあるのだろうか。「同じ」を装うっているだけではないのか。私たちは、ついつい癖で空気を読み、あるいは習慣として「同じ」に焦点を当ててしまいがちで、相違点を無視・軽視してしまう。そのような態度は、結論を導くには手っ取り早いが、成果につながる有益な議論、本当の意味での合意形成プロセスを経たことにはならない。「同じ」は何で、「違い」は何かを明らかにし、「違い」をチャンスと捉えて焦点を当て、熟議する姿勢が求められる。
多様性尊重段階を乗り越え、分離段階、統合段階へダイバーシティを進めていくには、上記のような二つの取り組みがポイントになる。一つは、「違い」の価値を会社や職場単位で議論し、共有すること。ダイバーシティを教科書的に本や研修といった機会で学んだとしても、「違い」の価値は、自社のビジネスや組織風土に見合った文脈で理解はできないはずだ。次に、「違い」にフォーカスし、それを前向きなきっかけとして議論する習慣である。「違い」を無視して「同じ」であることにしたり、「同じ」を装ったりする習慣を脱し、それぞれが「違い」を表明し、「違い」を議論のチャンスとして前向きに捉えるコミュニケーションを習慣にしなければならない。
新しい「日本的人事論」
2018.11.17
2018.11.29
2018.12.13
2019.01.31
2019.02.27
2019.03.20
2019.03.28
2019.04.20
NPO法人・老いの工学研究所 理事長
高齢期の心身の健康や幸福感に関する研究者。暮らす環境や生活スタイルに焦点を当て、単なる体の健康だけでなく、暮らし全体、人生全体という広い視野から、ポジティブになれるたくさんのエビデンスとともに、高齢者にエールを送る講演を行っています。