14歳から大人まで 生きることの根っこをかんがえる『ふだんの哲学』シリーズ 〈第3章|価値〉第7話
という心の成長です。人はまず、ものごとの外面のきれいさ、かっこよさに目をひかれます。色彩的にきれいなもの、形状的にかっこいいもの、装飾的に見栄えのするものなどをめでるとともに、それらを物として所有したいと思います。それらを手に入れ、自分の一部にしてしまうことで、自分もかっこよくなれると思うからです。そういった意味で、この第1段階にいる人間が強く持っているのは「外面的な美を所有する心」です。
ところが美は、これまで考えてきたように、目に見えやすい外面的な美だけでなく、目に見えにくい内奥的な美もあります。ここで、彫刻家の巨人オーギュスト・ロダンの言葉を紹介しましょう。
「美は性格のなかにあるのです。情熱のなかにあるのです。美は性格があるからこそ、もしくは情熱が裏から見えてくるからこそ存在するのです。肉体は情熱が姿をやどす型(かた)です」
「内面からの肉づけがないなら、輪郭は脂(あぶら)を持てない。しなやかにならない。堅い陰(かげ)で乾(ひ)からびる」
「われわれが輪郭線を写し出すときは、内に包まれている精神的内容でそれを豊富にするのです」
「一切の生は一つの中心からわき起こる。やがて芽ぐみそして内から外へと咲き開く。同じように、美しい彫刻には、いつでも一つの強い内の衝動を感じる」。
───『ロダンの言葉』(高村光太郎訳) *一部現代的かなづかいに変換
少しむずかしい表現になっていますが、とても大事なことをふくんでいるので、繰り返し読んで味わってください。
美に透徹したロダンがここで言っているのは、ほんとうの美は内側からの精神(情熱や性格、衝動とも言っている)のわき出しにある。外側の肉体(輪郭とも書いている)はそれを受け止める型である、ということです。そのためロダンは弟子たちに、彫刻は外側だけをとりつくろって形を出そうとするな。内面からの精神のわき出しを心の目で見よ、それを表現せよと教えたのです。
彫刻家と同じように、わたしたちも成長するにしたがって、ものごとの内側から出てくる強さや輝きを感じとれるようになります。ものごとをじっと見つめ、その内側に健康的な躍動や精神的な充実などを見出すと、「あぁ、美しいな」となります。これが第2段階への入り口です。
この段階に入ってきた人は、美しさのほんとうの出所(でどころ)はものごとの中身であると確信します。ですから、自分自身においても中身を大事にしようと思いはじめます。自分が献身的に没頭できるなにかを見つけて、自分の中身・人生の内容を充実させようとします。第2段階で強まってくるのは、そんな「内奥的な美に生きる心」です。
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キャリア・ポートレート コンサルティング 代表
人財教育コンサルタント・概念工作家。 『プロフェッショナルシップ研修』(一個のプロとしての意識基盤をつくる教育プログラム)はじめ「コンセプチュアル思考研修」、管理職研修、キャリア開発研修などのジャンルで企業内研修を行なう。「働くこと・仕事」の本質をつかむ哲学的なアプローチを志向している。