14歳から大人まで 生きることの根っこをかんがえる『ふだんの哲学』シリーズ 〈第3章|価値〉第6話
〈じっと考える材料〉
4月。桜が満開の朝、玲子と夏穂は桜並木の通学路を歩いている。
夏穂:
桜ってほんとうにきれいだね。
玲子:
うん、そうね。ぱっと景色が明るくなっていいわね。でも、わたし、基本的にピンクが好きだけど、桜の色はちょっとか弱すぎる。もっと強めのピンク色がいいのよ。バラのピンクみたいな。
夏穂:
わたしはこういう繊細なところがいいと思うんだ。か弱いように見えて、まだ肌寒い春にしっかりと咲くところが。
玲子:
うちのおばあちゃんは、「散るときの桜が一番きれいだ」って言ってたな。去年、入院してたとき、病院の窓から散っていく桜の花を一日中ずーっとながめてた。そのすぐあとだったなぁ、亡くなったの。
(と、2人が前を見ると、翔太が肩を落として歩いている)
玲子:
翔太、おはよう。どうしたの、浮かない顔をして。
翔太:
きのう、サッカーの試合に負けたんだ。ぼくのプレーが原因さ。あぁ、なんであのときあんなミスをしたんだろう。
玲子:
そんなこと悔やんでも時間は戻らないわ。これからどうやればもっと強くなれるかを考えなさいよ。ところで、ほら、桜が満開でとてもきれいよ。
翔太:
あ、満開だったんだ。気づかなかった。でも、いまは桜見る気分じゃないよ。
夏穂:
みんな、いろんな桜を見ているのね。
□夏穂は最後に、「みんな、いろんな桜を見ている」と言いました。玲子、夏穂、玲子の祖母、翔太は、それぞれどんな桜をどのように見ていますか?
春に咲く桜は、日本人の多くが美しいと感じるものです。しかし「桜は美しい」といっても、その「美しい」は人によってさまざまです。また、同じ人のなかでも、人生のときどきによって感じ方がちがってきます。では設問文でみていきましょう。
玲子は桜の花の色を見ています。目に入ってくる薄いピンク色が、景色をぱっと明るくしてきれいだと言っています。夏穂も花の色がきれいだと言っています。けれど彼女は同時に、花の色が一見か弱そうに見えながら、実は桜は肌寒いなかでしっかりと咲く生命力を内に秘めているところにも美しさを感じています。
この2人の違いはなにを意味しているのでしょう。それは美には、目に見えやすい「外面的な美」と、目に見えにくい「内奥的な美」の2つがあるということです。玲子はおもに、花の色という外側に現れる部分で美しいと感じている。夏穂はおもに、桜の木の内側からわいてくる生命力を見つめ、その力強さを美しいと感じています。
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キャリア・ポートレート コンサルティング 代表
人財教育コンサルタント・概念工作家。 『プロフェッショナルシップ研修』(一個のプロとしての意識基盤をつくる教育プログラム)はじめ「コンセプチュアル思考研修」、管理職研修、キャリア開発研修などのジャンルで企業内研修を行なう。「働くこと・仕事」の本質をつかむ哲学的なアプローチを志向している。