「介護離職ゼロ」に不可欠な介護施設増のためには介護スタッフの人手不足の解消が欠かせない。「介護職の処遇改善」はそのための3つの施策群のうち最も基本的なものでありながら、今までないがしろにされてきた側面でもある。
すべきことは全く逆だ。高齢者が急増する当面の間、他の予算は多少抑制してでも介護報酬を増やすことなくして、大量の介護離職を避けることは難しい。これは役人ではなく、政治家が決断すべき事柄なのだ。こうした観点は以前のコラム記事『あなたの家族に忍び寄る”介護による家庭崩壊”の危機』『介護制度の立て直しこそ地方再生につながる』でも指摘させていただいた。
かといって野放図な値上げは厳しい財政下で許されるものではなく、次回記事の“後編2”に述べるように業務生産性を大幅に上げることとセットになってこそ世間に受け入れられるものだ。
もちろん、介護事業者への報酬を上げるだけでは意味がなく、介護スタッフの処遇改善を実現することこそが肝心だ。実はこの「介護事業者からスタッフへの給与・手当」が2つ目の「目詰まり」なのだ。
そもそも昨4月から介護報酬が引き下げられたのは、かなり多くの社会福祉法人(社福)が不相応な内部留保を貯め込んでいるという調査結果が出たからだ。それなのに働く介護スタッフが低い給与で苦しんでいるというのは、介護法人の経営者たちが人件費の出し惜しみをしているとしか思えない、では内部留保を吐き出させよう、という話だったのだ。これ自体は市民感覚でも肯ける側面がある。
しかしこうした「ムチ」の政策に素直に応じるような連中だったら、そもそもスタッフの人件費を極端に出し惜しみしてまで内部留保確保に走りはしない。このままの制度では彼らはきっと何か抜け穴を見つけ出して、内部留保を私利私欲に転用する手段を考えるだろう(ちなみに社福では普通の企業と違って、期末の株主報酬という形で経営者の懐へ入れるという利益処分は採れないことになっている)。
最もありそうなのは、理事長が主導して幹部職員(多くの社福では理事長の家族で構成されているのが実情だ)に対する報酬をさらに引き上げ、介護スタッフへの報酬は相変わらず雀の涙程度にしか支払わないで済ませる、といった類である。それでも一見、人件費総額は上がるし、内部留保は減らせるので、役人の目先を十分誤魔化せると考えるだろう。
その一方、大多数の真面目な介護事業者の経営者たちは、既にできる限りの人件費をスタッフたちに支払っているにも拘わらず、ただでさえ苦しい台所事情がさらに圧迫され、進退窮まる状態(廃業を含む)に追いやられるのではないかと懸念する。そうなれば介護施設を増やすどころではない。
社会インフラ・制度
2016.01.20
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2018.03.21
パスファインダーズ株式会社 代表取締役 社長
パスファインダーズ社は少数精鋭の戦略コンサルティング会社です。「新規事業の開発・推進」「既存事業の改革」「業務改革」の3つを主テーマとした戦略コンサルティングを、ハンズオン・スタイルにて提供しております。https://www.pathfinders.co.jp/ 弊社は「フォーカス戦略」と「新規事業開発」の研究会『羅針盤倶楽部』の事務局も務めています。中小企業経営者の方々の参加を歓迎します。https://www.pathfinders.co.jp/rashimban/ 代表・日沖の最新著は『ベテラン幹部を納得させろ!~次世代のエースになるための6ステップ~』。本質に立ち返って効果的・効率的に仕事を進めるための、でも少し肩の力を抜いて読める本です。宜しければアマゾンにて検索ください(下記には他の書籍も紹介しています)。 https://www.pathfinders.co.jp/books/