「介護離職ゼロ」に不可欠な介護施設増のためには介護スタッフの人手不足の解消が欠かせない。「介護職の処遇改善」はそのための3つの施策群のうち最も基本的なものでありながら、今までないがしろにされてきた側面でもある。
『介護スタッフの処遇と業務の改善こそが人手不足解消の鍵(前編)』より続く
本記事の前編で整理した諸々のボトルネックを踏まえた上で、次にその解消手段を考えていきたい。その際には現職の離職理由につながる要素を解消・緩和することが最優先される。離職率低下に直接効く上に、「手離れ組」を除く3グループの応募へのボトルネックの大本だからだ。
ボトルネック解消の施策群は3つある。すなわち①介護職の処遇改善、②業務の改善、③職場の人間関係改善である。
「介護職の処遇改善」の基本は、介護スタッフの給与水準を底上げすることだ。社会的要請が高い職業なのに、いくら若い人が比較的多いからといって全産業平均を大きく下回る現状は許されるものではない。
なぜ介護スタッフの給与水準は全産業平均に対し大幅に低いままに据え置かれているのか。それは、介護職に対し報酬が支払われる流れの中で二つの「目詰まり」を起こしているからである。その一つは、社会保険の報酬単位が適正とはいい難く、人的サービスに見合った費用支給がなされていないという問題である。
介護保険制度では、介護サービスが提供されたという実績に基づくサービス事業者(社福法人など)からの請求に応じて、(国民健康保険団体連合会という機関を通じて)保険者たる市町村が費用の9割を支払う(残り1割は利用者の自己負担。一定以上の所得を持つ人は2割負担)。
この支払額の計算ベースは介護サービスの内容によって細かく分類・点数化されており(例えば『みんなの介護』を参照されたい)、その点数(単位と呼ばれる)の配分や支給限度額は3年に1度のペースで改定されている。問題は、その計算ベースが非常に抑制気味だということだ。
この報酬問題が最も基本的な事柄でありながら今まで目立った改善がなされずにきたのは、社会の高齢化がこの先進むにつれて社会保険を主に負担する現役労働者および企業などにとっての負担がさらに増えることが明らかであり、今のうちは何とか抑制しておこうという財務役人の考えだろう(ちなみに厚労省の役人は予算を増やしたい側なので、報酬引き上げには賛成なのだが、財務省を説得する力がないのである)。
その考え方が最も如実に表れたのが昨4月からの介護報酬の引き下げである。その際には職員の処遇改善も要望されたとはいえ、介護スタッフの給与水準や労働環境の改善に対し逆方向に働くことは容易に想像できる。そうなれば人手不足は加速し、介護離職に追いやられる家庭はむしろ増えてしまう。つまり目先だけを考えた小手先の始末が日本経済の縮退を招きかねないのである。
社会インフラ・制度
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パスファインダーズ株式会社 代表取締役 社長
パスファインダーズ社は少数精鋭の戦略コンサルティング会社です。「新規事業の開発・推進」「既存事業の改革」「業務改革」の3つを主テーマとした戦略コンサルティングを、ハンズオン・スタイルにて提供しております。https://www.pathfinders.co.jp/ 弊社は「フォーカス戦略」と「新規事業開発」の研究会『羅針盤倶楽部』の事務局も務めています。中小企業経営者の方々の参加を歓迎します。https://www.pathfinders.co.jp/rashimban/ 代表・日沖の最新著は『ベテラン幹部を納得させろ!~次世代のエースになるための6ステップ~』。本質に立ち返って効果的・効率的に仕事を進めるための、でも少し肩の力を抜いて読める本です。宜しければアマゾンにて検索ください(下記には他の書籍も紹介しています)。 https://www.pathfinders.co.jp/books/