14歳から大人まで 生きることの根っこをかんがえる『ふだんの哲学』シリーズ 〈第3章|価値〉第1話
では、設問のもう一つ、「物が腐る」ことを考えてみましょう。食べ物を放置しておくと、やがて腐りはじめる。強いにおいを放ち、それを食べようものなら、下痢を起こしたり、ひどい病気にかかったりする危険があります。だから、たいていの場合、「物が腐る=悪いこと」となる。しかし、これは一面からのとらえ方にすぎません。では、別の一面とはなんでしょう……?
食べ物が腐るとは、化学の授業でも習いますが、微生物が食べ物に付着してその成分を変化させる現象です。その現象に人間は2つの呼び名を与えました───そう、「腐敗」と「発酵」です。
人がふだん食べている味噌やしょうゆ、納豆、チーズ、ヨーグルト、お酒などは、発酵によってつくられます。これらは現象的には、腐敗によってつくられたといってもまちがいではないのです。発酵は食品づくりだけでなく、薬の開発にも幅広く利用されていて、人間社会に大きな貢献をしています。
このことからわかるように、物が腐ることには両面性がある。物が〈人間に益をもたらすように〉腐る場合、それは発酵と呼ばれ、良いこととしてとらえられる。逆に、物が〈人間に害を与えるように〉腐る場合、それは腐敗と呼ばれ、悪いこととしてとらえられる。
発酵にせよ、腐敗にせよ、それは人間が益になるか害になるかの観点でとらえたにすぎません。微生物の立場になってみれば、彼らはただ、生きるために懸命に物を食べているだけなのですね。それがたまたま化学的に物質を分解し、合成する現象を起こしている。そこには良いも悪いもありません。
ほかにもたとえば、空には太陽が照っています。太陽の光は一面では、動植物にとって欠かせない「生」を育む力になります。けれど同時に、太陽光のなかの紫外線には殺菌作用があり、「死」を与える力を持っています。そのように、動植物の立場から見れば、太陽の光は自分たちを「生かす/死なせる」両面の力があるわけですが、太陽自体はただ膨大に燃えているだけです。そこには生かすも死なせるもない。
わたしたちは知らず知らずのうちに、ものごとをとらえる視点が固まったり、かたよったりしてくる傾向性があります。いわゆる「固定観念にとらわれる」「偏見が強くなる」といった状態です。ものごとをある一面だけからながめて、こうだと決めつけるのは簡単なことです。あるものごとに接したとき、もっと違ったながめ方もあるのではないかと考えてみる。場合によっては、良い悪いを度外視して、ものごとを超越的にながめてみる。そんな習慣を身につけることはとても大切です。世の中の奥行きがぐんと広がって見えるとともに、自分の頭のなかの奥行きもぐんと広がるでしょう。
続きは会員限定です。無料の読者会員に登録すると続きをお読みいただけます。
- 会員登録 (無料)
- ログインはこちら
14歳から大人まで 生きることの根っこをかんがえる『ふだんの哲学』
2015.08.18
2015.08.31
2015.09.18
2015.09.29
2015.10.20
2015.11.04
2015.11.21
2015.12.08
2015.12.22
キャリア・ポートレート コンサルティング 代表
人財教育コンサルタント・概念工作家。 『プロフェッショナルシップ研修』(一個のプロとしての意識基盤をつくる教育プログラム)はじめ「コンセプチュアル思考研修」、管理職研修、キャリア開発研修などのジャンルで企業内研修を行なう。「働くこと・仕事」の本質をつかむ哲学的なアプローチを志向している。