財政を理由とする「在宅介護」重視は、女性の社会進出を阻害する愚策。むしろ官僚的発想の真逆の施策により介護制度を再生し、地方創生につなげるべき。
小生は幼い頃、祖父が晩年寝たきりになったため母がその介護に追われていた姿を間近に見た。当時はまだ介護制度自体がなく、自宅介護が唯一の選択肢だった。その担い手である母は我慢強く体力があり、祖父は小柄で要求が少なかったのが不幸中の幸いだった。しかも数年後に祖父は亡くなり、母は解放された。大好きだったはずの祖父が死んだとき、家族の間にほっとした空気が流れたのを覚えている。
あれが10年とか続いていたらどうだったろうと思う。安易に「家族が面倒をみるのが本筋」といったことを口にする人たちには、「ではあんた自身が介護を担うのか?」と質したくなる。
要介護度の高い老人の介護というものは素人には精神的・肉体的につらいものだ。どれだけ尽くしても、「家族なら当然」といった受け止め方を被介護者や周囲からされがちで(不思議なもので、職業人としての介護士のほうが感謝される機会が多いくらいだ)、感謝の言葉で家族介護者が満たされることは滅多にない。
家族による介護しかなかった時代には、介護を担う人(大体は主婦です)が精神的に追い詰められ、虐待が生じたりして社会問題になったのだ。そうした悲惨な事態を避けるため、我々の社会は介護制度を導入し、様々なタイプの介護施設とサービスを作ってきたのだ。それを忘れてはならない。
「在宅介護」を積極的に選びたい家族に対し、そのための訪問介護サービスのオプションを増やすという方向性であれば何の問題もない。むしろ、当初は在宅介護で始め、要介護度が高くなれば施設に入るというのが普通かも知れない。
要は、選択肢を増やす方向ならば望ましいことであり、逆に、在宅介護しか選べないように仕向けるとしたら、それは社会的な「改悪」なのだ。今必要なのは施設介護の否定や諦めではなく、むしろ中核たる施設介護の仕組みを立て直すことだ。
ではどうすれば今の介護業界の「要介護者の増加→介護給付の増加→介護財政の悪化→介護報酬の抑制→介護職の離職→人手不足→介護施設増設の遅れ→“空き”待ちの増加」という悪い連関を断ち切り、施設介護の社会的持続可能性を担保することができるのだろうか。その主なポイントはたった2つ、従来の発想を転換するところにあると思う。
第一に、官僚の意向とは真逆だが、介護職に対する報酬を早急に思い切り引き上げて、介護を一生の仕事にして家族を養っていけるレベルにすることだ。
今後も介護給付が増えることが予想されるため、官僚は介護報酬を抑制することに躍起になってきた。しかしその結果、「人を助けたい」という純真な気持ちで介護の仕事を始めた若者は「こんな給料では結婚できない」と絶望し、前の職を失い「とにかく仕事にありつけるなら」と介護の職に就いた一家の大黒柱は「これでは家族を養っていけない」と呆然とするのだ。
社会インフラ・制度
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パスファインダーズ株式会社 代表取締役 社長
「世界的戦略ファームのノウハウ」×「事業会社での事業開発実務」×「身銭での投資・起業経験」。 足掛け38年にわたりプライム上場企業を中心に300近いプロジェクトを主導。 ✅パスファインダーズ社は大企業・中堅企業向けの事業開発・事業戦略策定にフォーカスした戦略コンサルティング会社。AIとデータサイエンス技術によるDX化を支援する「ADXサービス」を展開中。https://www.pathfinders.co.jp/ ✅中小企業向けの経営戦略研究会『羅針盤倶楽部』の運営事務局も務めています。https://www.facebook.com/rashimbanclub/
