随分と長い間、「旧姓使用」問題に関する論争が決着していない。しかし法律改正と全国官民のDBシステムの改修さえ決断すれば、この問題を解決できる選択肢がある。
ここで提示したい第3の選択肢は、関係法令を手直ししてこのミドルネームを戸籍制度に採り入れ、従来の「姓」と「名」に加え、結婚しても旧姓を使用したい人に「ミドルネーム」として使えるようにしてあげることだ。
もちろん、使いたくない人は従来のままでいいし、「恰好いいから」と無関係なものを誰にでも使わせる訳ではない。あくまで「結婚を機に」「旧姓」をミドルネームとして使うことを「正式に」認めるのだ。
例えば旧姓が「安藤」、結婚して新たな姓が「山田」になる(名が)「博美」さんだったら、日本語書類での表記は「山田 安藤 博美」、英語表記は ”Hiromi Ando-Yamada”とでもなるだろう。
こうすれば旧姓の通称使用およびその法制化と同様のメリットをまず受けられる(図表2参照)。
アイデンティティの喪失も、キャリア継続性が損なわれるリスクも心配しなくて済む(海外論文でも本人同一性が認められるはずだ)。だから結婚による不利益も被らなくて済む(もちろん従来通り、新夫婦のどちらの姓を家族共通姓にするかの決断は必要だ)。
旧姓の通称使用に伴うデメリットもほぼ解消できる。旧姓と新姓の両方を示す形になるので使い分け自体を必要とせず、取引先や顧客からの誤解や混乱を招くこともない。法的な根拠があるので公的書類における手続きが煩雑になることもない。口座開設やクレジットカード作成も問題ない。
この方法ならば、選択的夫婦別姓制度の導入で心配されるような社会問題を回避できる。夫婦同姓は維持されるので、子どもの姓の選択に悩む必要はなくなるし、家族の一体感の喪失という懸念はなくなる。相続や税制上の問題も起きない。
この選択肢のデメリットは唯一、管理・システム面でのコストだ。公的な戸籍・住民票などのデータベース(DB)も、企業等の従業員DBも顧客DBも、従来は「姓」と「名」しか管理しておらず、「ミドルネーム」という項目を追加する必要があるし、管理コストも若干だが増えよう。
このシステム改修費用は小さくはないし、移行期間には(周知も含め)何年も掛かろう。しかし何十年も決着しない社会的議論に終止符を打ち、保守派もリベラル派も納得できるのであれば、むしろ早い決着だ。
ましてや、この問題が障害となって結婚に踏み切れない人の背中を押すことができ、結婚して姓が変わったことで「(配偶者はそのままなのに)自分だけが損をした」などと恨み言を言いたくなる人が減るのであれば、長い目で見れば社会的得失は大きくプラスではないか。
是非、新しい政治環境のもと、日本社会を前向きに動かす第一歩として「ミドルネーム」による解決を、政治家諸氏には目指していただきたい。社会インフラ・制度
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パスファインダーズ株式会社 代表取締役 社長
「世界的戦略ファームのノウハウ」×「事業会社での事業開発実務」×「身銭での投資・起業経験」。 足掛け38年にわたりプライム上場企業を中心に300近いプロジェクトを主導。 ✅パスファインダーズ社は大企業・中堅企業向けの事業開発・事業戦略策定にフォーカスした戦略コンサルティング会社。AIとデータサイエンス技術によるDX化を支援する「ADXサービス」を展開中。https://www.pathfinders.co.jp/ ✅第二創業期の中小企業向けの経営戦略研究会『羅針盤倶楽部』を主宰。https://www.facebook.com/rashimbanclub/
