デジタル教科書推進作業部会が提示した中間まとめ案はかなり偏重した「推進」ありきの内容だ。このまま進むと特定地域の子どもたちの思考力を奪いかねない、「取り返しのつかない社会実験」を目指すものだ。
文部科学省の中央教育審議会デジタル教科書推進ワーキンググループ(作業部会)は今月14日、中間まとめ案を発表した。
デジタル教科書は、紙の教科書と同じ内容をデジタル化したもので、学校教育法の改正により、2019年度から紙の「代替教材」と位置付けられている。
中間まとめ案では、①デジタル教科書を検定や採択、無償配布の対象となる「正式な教科書」に位置づける、②紙かデジタルかは各教育委員会などが選択する、③「一部が紙、一部がデジタルで作られたハイブリッドな形態」の教科書も認める、④導入時期としては次期学習指導要領が実施される30年度に合わせる、といったことが明記されている。
一方で、対象学年としては「児童生徒の発達段階に応じて検討することが重要だ」としており、認知処理能力が未発達とされる小学校の低学年についてはデジタル教科書の使用を控える必要があることを匂わせてもいる。
教員が関与せずにデジタルの使用を児童生徒に任せた場合には「授業への集中力や習熟度での格差が拡大する」と、リスクにも言及している。
各教育委による選択制を採用する理由としては、デジタル教科書の活用が十分に進んでいないことや、紙とデジタル双方のよさが指摘されていること、「スウェーデンがデジタル化の見直しを行うなど諸外国の立場も様々だ」とし、「教科書を全国一律に切り替えることは望ましくない」と結論づけている。
一見、様々な観点に配慮しバランスのよい結論を出したように見えるかも知れない。しかし冷静に読んでみると、「デジタル教科書を正式な教科書とする」という結論ありきで、その導入のやり方をマイルドにすることで反対意見を封じ込めようとする意図が明白だ。
そもそも現在の「デジタル教科書は補完的存在で、あくまで紙の教科書を主たる教材とする」という現行方式に何の問題があるというのか。この作業部会の提言は、あまりに唐突で合理的根拠に欠けると言わざるを得ない。
確かにデジタルで動画や音声を活用することには、アナログの文字だらけよりも認識しやすいし、やり方によっては例えば立体的観点で提示できるため理解しやすい場合も少なからずある、という利点が挙げられよう。しかしそれはデジタルを補完的教材として使うだけでも達成可能なメリットだ。つまり「デジタルだけ」という選択肢をあえて作る理由にはならないのだ。
ましてや「深い思考や記憶の定着には紙のほうが優れている」という研究報告が世の中で相次いでいることを文科省の役人が知らないはずはない。デジタルだけでは子どもの集中力が続かず、考えが深まらないという弊害が確認されたため、デジタル先進国であるスウェーデンが紙の教科書や手書きを重視する「脱デジタル」に転換したことも然りだ。
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パスファインダーズ株式会社 代表取締役 社長
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