都市部の住宅価格は買う人の年収から逆算して妥当とされるレベルをとっくに超えており、持続可能な価格レベルではない。「高値掴み」の悲劇を味わいたくなければ、冷静になって見送るのが賢明だろう。
日銀がマイナス金利政策を転換したことで住宅ローンの金利も上がろうとしている。この動きの中で、「この先もっと住宅ローン金利が上がる前に、おうちを買うなら今ですよ」などと、住宅会社や不動産屋に強く薦められている人たちも少なくないだろう。
しかし冷静になって考えたほうがいい。都心ど真ん中の物件は希少価値があるので別格として、住宅価格は今がピークである蓋然性は高い。今慌てて買うと、10年先から振り返ると「高値掴み」になる可能性はかなり高い。金利だけで判断するのは早計だ。
まず統計的もしくは経験則的観点から見てみよう。物件価格が購入者の年収の何倍かを示す数値のことを「年収倍率」と呼び、「住宅の購入価格÷年収」で求めることができる。
この「年収倍率」はずっと全国平均で5~6倍程度と言われ続けていた。土地価格の高い東京圏でみても7~9倍が概ね平均だ。しかしバブル絶頂期である1989年には東京の新築マンションの年収倍率はピークの14.1倍をつけている(不動産調査会社・東京カンテイ調べ。以降同じ。なお1990年には瞬間風速的に18.12倍という数値も記録に残っているようだ)。
その後徐々に同倍率は低下し、2000年に7.13倍というボトムを記録。その後反転した東京の同倍率はじわじわと上昇した後、近年になって急速に上げ足を速め、今や約15倍になっている。築10年ほどの中古マンションでさえ14倍を超えるという(平均的には新築より広めなので不思議ではない)。
つまり住宅価格の年収倍率は既にバブル期とほぼ同じ、またはそれ以上の「割高」ということだ。この傾向は東京だけでなく他の大都市圏でも同様だ。一体どうやってこんな無理を続けられてきたのか。
よく指摘されていることだが、バブル期にはまだ少なかった「パワーカップル」という、共に稼ぎの多い夫婦が増えてきたことが背景にあるだろう(当時は「ダブルインカム」という呼び名はあったが、必ずしも両方が高収入というニュアンスではなかった)。それだけ経済的自立の条件を満たせる女性が増えたことは実に喜ばしいことだ。
しかし「パワーカップル」状態がずっと続く前提で、目の球が飛び出るような高額な住宅ローンを多少無理してでも組む、というのはかなりリスキーな賭けだ。
子どもが生まれてくれば、少なくとも両方がフルタイムで稼ぎまくるのは難しかろう。子育てピーク後に休職から復帰しても、必ずしも元の職場で同じ職種で、フルタイムでバリバリ働けるとも限らない(約束してくれた上司がずっといるとは限らない)のが現実だ。
社会インフラ・制度
2023.10.18
2023.11.22
2023.12.20
2024.01.17
2024.03.27
2024.06.19
2024.09.18
2024.10.16
2024.11.20
パスファインダーズ株式会社 代表取締役 社長
パスファインダーズ社は少数精鋭の戦略コンサルティング会社です。「新規事業の開発・推進」「既存事業の改革」「業務改革」の3つを主テーマとした戦略コンサルティングを、ハンズオン・スタイルにて提供しております。https://www.pathfinders.co.jp/ 弊社は「フォーカス戦略」と「新規事業開発」の研究会『羅針盤倶楽部』の事務局も務めています。中小企業経営者の方々の参加を歓迎します。https://www.pathfinders.co.jp/rashimban/ 代表・日沖の最新著は『ベテラン幹部を納得させろ!~次世代のエースになるための6ステップ~』。本質に立ち返って効果的・効率的に仕事を進めるための、でも少し肩の力を抜いて読める本です。宜しければアマゾンにて検索ください(下記には他の書籍も紹介しています)。 https://www.pathfinders.co.jp/books/