都市部の住宅価格は買う人の年収から逆算して妥当とされるレベルをとっくに超えており、持続可能な価格レベルではない。「高値掴み」の悲劇を味わいたくなければ、冷静になって見送るのが賢明だろう。
子どもを持たずとも、配偶者のどちらかが重い病気や怪我を患うこともあろうし、少なくとも片方が転職・失業するなどして世帯年収が一挙に下がるリスクもある。これは「パワーカップル」に限った話ではなく、どの世帯にも共通するリスクだ。人生何が起きるか分からないのだから、ずっといい状態が続くことを前提とした資金計画は「甘い」としか言いようがない。
次にもっとマクロ経済的な視点で、住宅の需要と供給を考えてみよう(弊社は経営コンサルティング会社であって不動産調査会社ではないが、たまたま住宅関係のプロジェクトにしばらく関与していたので、住宅の需給には強い関心を持ち続けていたという背景がある)。
まず、需要サイドはどうしても弱含みだ。なぜなら日本の人口、特に主たる住宅購入世代である比較的若い層が今後急速に減っていくからだ。これは地方だけでなく、大都市圏での人口動態でもそうした傾向が明らかになってきている。
考慮すべき要素として、近年は人口が横ばいになってきたのに、既存世帯から分離して独り身となる世帯が増えていたため、結果として都市部の住宅需要は底堅く推移してきた(正確には賃貸アパート建設などが土地余りを防いできた)ことを忘れてはならない。
しかし今後は高齢居住者がどんどん減り(死去だけでなく老人ホーム等への転居も含め)、30代以下の人口は急速にやせ細ってきている。つまり新たに住宅を必要とする人口が年々目に見えて減っている。そしてその一方では、既存世帯から分離して独り身世帯が増えることでこれ以上世帯数が増える余地はあまりないと見られる。
一方で供給余力はこれから増す。まず空き家数と賃貸空室率は着実に上昇し続ける。しかし既に巨大な産業となっている住宅建設業界(住宅メーカー、マンション会社、建売住宅会社、工務店など)は、空き家や空室が多いからと休んでいては仕事にならないので、何とか土地を見つけて建設・販売しようともがき続ける。
コロナ禍の最中と直後は「ウッドショック」(輸入木材の高騰)や住設機器のサプライチェーン停滞に加え、円安や燃料高もあって資材供給が逼迫した。しかも建設労働者の高齢化による人手不足が深刻化したため、住宅建設コストが日本では特に急騰した。そのため供給圧力は抑制されていたほうなのだ。
このうち建設労働者の人手不足と円安による一部の輸入資材高だけは変わらないが、他の条件は随分と緩和または解消している(ただし耐震や気密・断熱など求められる性能がどんどん上がっているので、コストも共に上昇している)。つまり、資材は潤沢に供給できるようになったが、建ててくれる人が足らない状態だ。
社会インフラ・制度
2023.10.18
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パスファインダーズ株式会社 代表取締役 社長
「世界的戦略ファームのノウハウ」×「事業会社での事業開発実務」×「身銭での投資・起業経験」。 足掛け38年にわたりプライム上場企業を中心に300近いプロジェクトを主導。 ✅パスファインダーズ社は大企業・中堅企業向けの事業開発・事業戦略策定にフォーカスした戦略コンサルティング会社。AIとデータサイエンス技術によるDX化を支援する「ADXサービス」を展開中。https://www.pathfinders.co.jp/ ✅中小企業向けの経営戦略研究会『羅針盤倶楽部』の運営事務局も務めています。https://www.facebook.com/rashimbanclub/
