ミドルネームという解決策がある

2025.07.24

経営・マネジメント

ミドルネームという解決策がある

日沖 博道
パスファインダーズ株式会社 代表取締役 社長

随分と長い間、「旧姓使用」問題に関する論争が決着していない。しかし法律改正と全国官民のDBシステムの改修さえ決断すれば、この問題を解決できる選択肢がある。

日本では戸籍法で夫婦同姓を課しているため、結婚後に姓を変更する女性が多い。しかし当事者にとってはアイデンティティの喪失感やキャリアの継続性リスクは大きく、職場では旧姓を通称として継続的に使用する人たちも増えている。

現在では多くの企業でそれを認める規定を設けているが、通称としての旧姓使用には法的な根拠がないため、幾つか深刻な問題を当事者にもたらしている。

まず、企業・団体によってはまったく対応できていない。対応できている企業・団体でも、通称と戸籍名の両方を管理する必要があり、事務処理の負担が増加する。通称と戸籍名を使い分けることで、取引先や顧客からの誤解や混乱を招く可能性があるし、公的な書類では戸籍上の氏名が使用されるため、手続きが煩雑になる場合がある。金融機関によっては、旧姓での口座開設やクレジットカード作成ができない。

こうしたことからこの問題に対し主に2つの解決策が提示されているが、それぞれデメリットが大きいため、議論が膠着している。


1.旧姓の通称使用の法制化

この案は、夫婦同姓を維持しつつ、旧姓の通称使用を法制度で根拠づけるものだ。例えば、パスポートや運転免許証などの公的書類に旧姓を併記できるようにしたり、会社や学校などで旧姓使用を認めたりすることなどだ。この案のメリットは、夫婦同姓を維持しつつ、旧姓使用による不利益を解消できるという点だ。保守層からは「これで十分じゃないか」と強い支持がある。

しかしながら幾つかのデメリットも明らかで、リベラル層からは「中途半端だし、実質的に今と変わらない」との拒否反応が強い(図表1参照)。

具体的には次の通り。

1)管理上の負担増加

  • 公的書類では戸籍名が使用されるため、企業や団体では旧姓と戸籍名の両方を別途管理する必要が生じ、経理や人事担当者の負担が増加する可能性がある。

2)本人や周囲の混乱

  • 旧姓と戸籍名の使い分けにより、本人自身のアイデンティティの混乱や、周囲からの同一人物としての認識の遅れが生じる恐れがある。
  • 旧姓と戸籍名が異なることで、本人確認や契約締結などの場面で支障が生じる恐れがある。

3)悪用リスク

  • 通称使用の拡大によりマネーロンダリングや詐欺などの犯罪に悪用されるリスクも指摘されている。
  • 旧姓と戸籍名の紐づけ管理が徹底されない場合、犯罪者が旧姓を悪用して本人に成りすます可能性も否定できない。


2. 選択的夫婦別姓制度の導入

この案は、結婚する際に夫婦がそれぞれ結婚前の姓を名乗ることを選択できる制度に切り替えることを意味し(もちろん夫婦が同じ姓を名乗りたいという自由は残る)、現在の「夫婦は原則として同じ姓を名乗ることを義務付ける」戸籍法の原則を改めるものだ。

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日沖 博道

パスファインダーズ株式会社 代表取締役 社長

「世界的戦略ファームのノウハウ」×「事業会社での事業開発実務」×「身銭での投資・起業経験」。 足掛け38年にわたりプライム上場企業を中心に300近いプロジェクトを主導。                     ✅パスファインダーズ社は大企業・中堅企業向けの事業開発・事業戦略策定にフォーカスした戦略コンサルティング会社。AIとデータサイエンス技術によるDX化を支援する「ADXサービス」を展開中。https://www.pathfinders.co.jp/                 ✅第二創業期の中小企業向けの経営戦略研究会『羅針盤倶楽部』を主宰。https://www.facebook.com/rashimbanclub/

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