デジタル教科書を推進したい文科省の思惑

2025.02.19

ライフ・ソーシャル

デジタル教科書を推進したい文科省の思惑

日沖 博道
パスファインダーズ株式会社 代表取締役 社長

デジタル教科書推進作業部会が提示した中間まとめ案はかなり偏重した「推進」ありきの内容だ。このまま進むと特定地域の子どもたちの思考力を奪いかねない、「取り返しのつかない社会実験」を目指すものだ。

この「地域によってはデジタル偏重を許す」政策変更をもし強行すれば、これまでの「全国一律に一定水準の教育を受けられる」環境を国が保証してきた義務教育の大転換であり、地域による教育格差を生むことは確実だ。各教育委がよく考えないと、地域の子どもたちの思考能力が低下するリスクを軽視する愚かな決断を下さないとも限らない。

ではなぜ文科省はこうしたリスクを知っていながら、あえて暴挙に突き進もうとしているのか。ここからは推測の域を出ない話だ。

「デジタルだけ」という選択肢を敢えて作ることの唯一のメリットは、義務教育において無償となっている教科書(特に紙のもの)の給与コストを抑えることができる可能性があることだ(短期的にはむしろ制作に手間が掛かる分だけデジタルのほうがコスト増となるという指摘もある)。

そのコストを負担しているのは国であり、文科省が予算化している。では文科省はその予算を抑制したいがためにこんな無茶な横車を押そうとしているのか。否。中央官庁の役人の発想からして「予算は自らの権力の源」なので、それを減らすことに躍起になるはずがない。

では教科書を制作している会社たちが「教科書制作コストが色々と掛かっている割に低価過ぎて維持できない」と悲鳴を上げている(これは事実)ので、その見直しのために役所がひと肌脱ごうとしているのか。

これも否。中央官僚が民間業者の苦境を救ってあげるために動くはずがない。ただしデジタル教科書を推進する業界の鼻薬が一部の役人たちに強烈に効いている可能性はゼロではないかも知れない。

一番有力なのは組織文化説だ。過去の「ゆとり教育」でとんでもない学力低下を招いたように、(子供たちの犠牲のもとで)「新しい実験をやってみたい」誘惑に耐えられない組織体質なのだという指摘である。

冒頭に挙げた作業部会は、文科省が実施する意見公募(パブリックコメント)を経て、今秋までに最終まとめを策定する予定だ。そして25年度以降に法改正を進め、新たな教科書の検定を28年度に行うというスケジュールを想定しているとのことだ。

どこかで阻止しないと、ニッポンの宝である子どもたちの思考能力が危機にさらされることになる。
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日沖 博道

パスファインダーズ株式会社 代表取締役 社長

世界的戦略ファームのノウハウ×事業会社での事業開発実務×身銭での投資・起業経験=実践的な創業の知見を誇ります。 ✅足掛け35年超にわたりプライム上場企業を中心に300近いプロジェクト=PJを主導 ✅最近ではSIP(戦略的イノベーション創造プログラム)PJの一つを支援 ✅以前には日越政府協定に基づくベトナム・ホーチミン市での高速都市鉄道の計画策定PJを指揮  パスファインダーズ社は少数精鋭の経営コンサルティング会社です。事業開発・事業戦略策定にフォーカスとした戦略コンサルティングを、大企業・中堅企業向けにハンズオン・スタイルにて提供しております。https://www.pathfinders.co.jp/                  弊社は中小企業向け経営戦略研究会『羅針盤倶楽部』の運営事務局も務めています。特に後継経営者の方々の参加を歓迎します。https://www.pathfinders.co.jp/rashimban/       

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