三菱商事の洋上風力撤退は、日本のエネルギー戦略が岐路に立っていることを象徴している。大規模集中型モデルの限界を直視し、小型化・分散化を軸にした「地産地消」の仕組みへと舵を切るべき時期が来ている。
1. 三菱商事の撤退と小型風力発電の可能性
先頃、総合商社の三菱商事が洋上風力発電事業からの撤退を表明した。莫大な建設コスト、長期化する環境アセスメント、送電網接続の課題など、構造的な困難が重なった結果だ。これにより「大規模集中型」の再生可能エネルギー事業の限界があらためて浮き彫りになった。
一方で、風力発電そのものの将来性が失われたわけではない。発想を大規模から小規模へと転換すれば新しい展望が開ける。
たとえば小型風力発電機であれば、設置場所の制約が少なく、建設・メンテナンス費用も圧倒的に低減できる。日本には、微風でも発電できるし台風が来ても壊れない、独自の垂直軸型風車を開発したチャレナジーをはじめ、優れた小型風力発電技術を持つ企業が存在する。
これらは学校や公共施設、地域の工場などに分散的に導入可能であり、天候条件さえ乖離しなければ、地域社会が自らの電力を自ら生み出す「地産地消型エネルギー」の中核を担い得るものだ。
国家的プロジェクトとして整備される大規模洋上風力に対し、小型風力は電源の多様性とレジリエンスを高める存在となる。
2. ダム水力の限界と小水力発電の潜在力
ダムによる水力発電は、低い運転コストと安定的な電力供給から「理想的なベース電源」と呼ばれてきた。
しかし、現実には新規ダム建設はほとんど不可能に近い。高額な建設費に加え、環境破壊や地域住民の反対が避けられず、もはやエネルギー政策の選択肢にすら挙がらない状況である。
だが、日本には大小の河川が全国に広がっている。これを活かした小水力発電には大きな余地がある。出力数百kW規模の発電所でも、地域の学校や役場、農業施設などの電力をまかなえる。小水力発電は昼夜を問わず安定して稼働するため、風力や太陽光の変動を補うベース電源としての役割も期待できる。
もし日本全国に小水力発電所を分散設置すれば、地方ごとの電力自給率を飛躍的に高められる。
都市部では難しくとも、既存の大規模発電所から遠く離れているが故に送電コストが高くついてしまう地方の山間地や農村地帯に対しても、地元に眠る「未利用エネルギー」を掘り起こすことができれば、地域経済の活性化にも直結すると同時に、日本社会全体のエネルギー配給コストを大きく下げることができるのだ。
3. 原子力の小型化とSMRの時代
原子力発電は、その安全性と社会的受容性の問題から長年議論が続いてきた。福島第一原発事故が示したように、大型炉はひとたび制御不能に陥れば甚大な被害をもたらす。最大のリスクは「巨大過ぎて制御できない」という構造的欠陥にある。
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パスファインダーズ株式会社 代表取締役 社長
「世界的戦略ファームのノウハウ」×「事業会社での事業開発実務」×「身銭での投資・起業経験」。 足掛け38年にわたりプライム上場企業を中心に300近いプロジェクトを主導。 ✅パスファインダーズ社は大企業・中堅企業向けの事業開発・事業戦略策定にフォーカスした戦略コンサルティング会社。AIとデータサイエンス技術によるDX化を支援する「ADXサービス」を展開中。https://www.pathfinders.co.jp/ ✅第二創業期の中小企業向けの経営戦略研究会『羅針盤倶楽部』を主宰。https://www.facebook.com/rashimbanclub/
