「年収103万円の壁」の見直しの論議は完全に政治パフォーマンスの世界だ。既に制御が効かなくなっている財政赤字を拡大する「バラマキ策」でもあり、社会的公平性にも反する。そもそも制度的にも誤解がある。とはいえ、もし本当にどの給与レベルでも「働き控え」を抑制したいなら、国民民主党が主張する策の真逆を行くのが正解ではないか。
議論のポイントは、第3号被保険者である配偶者の年収が103万円を超えると、扶養者が配偶者控除を受けられなくなるところにある。年収が103万円を超えないように「働き控え」が行われる理由は、単に本人が課税されるだけでなく、それに加え扶養者がこうした控除を受けられなくなって、世帯全体として手取りが減って損をすると考えられているからだ。
しかし、たとえ配偶者本人の年収が103万円を超えても、実は『配偶者特別控除』という制度が昭和62年から導入されており、扶養者は最大38万円の控除を受けられる。今では配偶者本人の年収150万円までは、扶養者の年収が900万円以下ならば38万円満額の控除を受けられる(これが『150万円の壁』)。
注)学生の場合にはそうした救済措置的制度がないため、その扶養者である親にとっては「年収103万円の壁」は実質的な壁として存在する。それと扶養者の勤める企業によっては、独自の配偶者手当の支給基準を未だ残しているところがあり(「古き良き会社」といえよう)、この「年収103万円」に合わせているところもある。この場合は別のところに「壁」が存在するので注意が必要だ。
つまり今でも大半のパート主婦は「年収103万円の壁」を気にする必要はない。単に『配偶者特別控除』という制度が知られていないだけなのだ。そのため心理的な「壁」として残っているというのが実情だ。
国民民主党の玉木代表は2005年(平成17年)までの12年間、こうした税制の元締めであるところの財務省の官僚を務めている。この制度について知らないはずはない。それでも「年収103万円の壁」を壊す主役を演じ、サラリーマン家庭に向け「我が党はあなたたちの味方ですよ」とアピールしているのだ。なかなかの役者である。
しかし仮にこの制度がよく知られるようになっても、冒頭の「非課税枠の178万円までの引き上げ案」と同じことで、年収が150万円に届く手前で「働き控え」が行われることに変わりない。
だからこそ小生の私案のように、「働き控え」する気が起きないほど安い金額のところに非課税枠を設定すべきなのだ。もしくは、そもそもの「諸悪の根源」でありこうした問題を引き起こしている、専業主婦を優遇する第3号被保険者制度を廃止するのが最も根本的な解決法といえる。社会インフラ・制度
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パスファインダーズ株式会社 代表取締役 社長
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