「年収103万円の壁」の見直しの論議は完全に政治パフォーマンスの世界だ。既に制御が効かなくなっている財政赤字を拡大する「バラマキ策」でもあり、社会的公平性にも反する。そもそも制度的にも誤解がある。とはいえ、もし本当にどの給与レベルでも「働き控え」を抑制したいなら、国民民主党が主張する策の真逆を行くのが正解ではないか。
すると何が起きるか。さすがに年収20万円以下になるように「働き控え」をする人は極端に少なくなるだろう。
問題は、①2つの税率体系のいずれを適用するかの境目の年収をいくらとするか、②低所得者向けの税率を幾つにするか、の「組合せ」の設計だ。これをうまくやれば低所得者は不満少なく「働き控え」もしない。税収もそれほど落ち込まずに済む。
例えば①2つの税率体系の境目の年収を今より少し上げて114万円とし(115万円以上の年収なら従来の税率体系を適用)、②最低税率を今よりぐんと下げて0.5%とすると、どうなるか。
年収100万円の人は従来なら税金を払っていなかったのが5千円払うことになる。確かにちょっと悔しいのかも知れないが、「これくらいなら仕方ない」と思ってもらえるのではないか。そしてもう少し働くことで手取りは確実に増える。すると「年収の壁」はなくなってしまうはずだ。
年収114万円の人は5,700円払うことになる。それに対し年収115万円の人は従来の税率体系なので、115万円マイナス103万円の「12万円の課税所得」に対し最低税率5%の税金、すなわち6千円払うことになる。これでも従来より相当安くなるはずだ。
しかし課税対象者が格段に広くなる(これは税の精神からは理想的)ので、税収全体で見ると大して落ち込まない(どころか、もしかすると増える可能性すらある)。
もちろん、生活保護の対象者から(いくら安くとも)所得税を取り立てるのは避けたい。具体的には、世帯年収が156万円以下(つまり月収が最低生活費13万円以下)である場合は、(他の条件が揃えば)生活保護の対象となるので、所得税の対象からも除くのが社会通念上妥当だろう。
さて、実は世に問われている「年収103万円の壁」の議論は片手落ちである。というのは、国民民主党が指摘し与党がおたおたと対応しようとしている「年収103万円の壁」の話には、誤解と公的な抜け穴があるのだ。
この「年収103万円の壁」が気になる世帯の大半は、旦那さんがサラリーマンまたは公務員で(こちらが「扶養者」)、その奥さん(配偶者本人)が第3号被保険者であってパートやアルバイト等で家計の足しにしているというパターンである。
配偶者本人の手取りは「年収103万円の壁」を超えることで却って減るような印象がある。しかし実際には課されるのは、103万円を超える超過分に対し税率5%が掛かるに過ぎないので手取りは着実に増えるのである。つまりここが議論のポイントではないのだ。
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パスファインダーズ株式会社 代表取締役 社長
「世界的戦略ファームのノウハウ」×「事業会社での事業開発実務」×「身銭での投資・起業経験」。 足掛け38年にわたりプライム上場企業を中心に300近いプロジェクトを主導。 ✅パスファインダーズ社は大企業・中堅企業向けの事業開発・事業戦略策定にフォーカスした戦略コンサルティング会社。AIとデータサイエンス技術によるDX化を支援する「ADXサービス」を展開中。https://www.pathfinders.co.jp/ ✅中小企業向けの経営戦略研究会『羅針盤倶楽部』の運営事務局も務めています。https://www.facebook.com/rashimbanclub/
