/ふつうは12個も集めたら、卒業するだろ? なのに、良い子のまま、ぜんぶだよ。いまの時代についていけない、大人のなりそこねだな。でも、みんな、ここに来て、昔の話をするんです。自分は部屋に入って来たところを見た、とか、飛んでいった、とか。/
「わかってないなぁ、子どもに見せるのよ。
おかあさんは、サンタに会った、友だちなんだ、ってね」
「お子さんは、いくつなんですか?」
「えっ、私が子持ちに見えるわけ?」
「失礼しました……」
「いや、だからたいへんなのよ!」
「?」
「あなたね、このおじいさん、いくつだかわかってる?
わたしもよく知らないけれど、きっとすごい年よ。
だから、ほら、いつ、あれしちゃうかもしれないでしょ」
「おいおい、わたしのこと、ずいぶんな言いようだね」
「だけど、ほんとよ。永遠になんて無いのよ。
そうなったら、だれが信じる?
わたしが、会った、ほんとにいた、って言うしかないでしょ」
「あの、ホットミルク。お熱いので気をつけて」
「うちの両親だってさ、もう年だから、工務店、たたむって。
土地から売って、老人ホーム入るって。
じゃあ、わたし、どうすんのよ?」
「いっしょにお住まいなんですか?」
「お住まいどころか、わたしが働いてんの!
使っていた大工さんたちが、みんな引退しちゃったから、
見よう見まねでさ、結局、いま、わたしひとりよ。
それだって、もう大手の下請けの手間仕事ばっか。
ま、たしかに先は見えないけどさ、
わたしががんばってるのに、やめるはないでしょ!」
「それは、困りましたね」
「でしょ。どうすんの、わたし?」
「いまちょうど、このオーナーも、このホテルを閉める話をしてたんだよ」
「え、オーナーなの? 雇われじゃないの?」
「まぁ、こんな古い小さなホテルですけど」
「なんで、閉めるの? 来年、困るじゃない!」
「あちこち、もう傷んでまして」
「そう? そりゃ新しいとは言えないけれど、
躯体はしっかりしてるじゃない? もったいないなぁ」
「いや、このあたりも、もう高齢化で、
知り合いの工務店さんもみんなやめてしまって……」
「……部屋、あるんでしょ?」
「ええ、まあ、ホテルですから」
「食事は?」
「それは、私がいつも」
「じゃ、話は決まった。わたしが直す」
「え?」
「材料費だけでいいわ。小遣いは近所の別荘でも修繕して稼ぐから。
ただし、部屋と食事は、ずっとタダね。
それから、わたしをぜったいに追い出さないこと」
「それでいいんですか?」
「いや、だって、わたし、ほかに行くとこ、無いんだもん」
「ずいぶんかんたんに決めるねぇ」
「あのね、チャンスは即断即決がたいせつなの!」
「チャンスですか……」
「いい? このおじいちゃんが証人よ。約束は守って」
「ははは、わかった、わたしが証人になるよ。
物語
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2020.12.23
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2022.12.28
2023.12.19
大阪芸術大学 哲学教授
美術博士(東京藝大)、文学修士(東大)。東大卒。テレビ朝日ブレーン として『朝まで生テレビ!』を立ち上げ、東海大学総合経営学部准教授、グーテンベルク大学メディア学部客員教授などを経て現職。