森のホテル:クリスマスのお話

2023.12.19

ライフ・ソーシャル

森のホテル:クリスマスのお話

純丘曜彰 教授博士
大阪芸術大学 哲学教授

/ふつうは12個も集めたら、卒業するだろ? なのに、良い子のまま、ぜんぶだよ。いまの時代についていけない、大人のなりそこねだな。でも、みんな、ここに来て、昔の話をするんです。自分は部屋に入って来たところを見た、とか、飛んでいった、とか。/

「わかってないなぁ、子どもに見せるのよ。

おかあさんは、サンタに会った、友だちなんだ、ってね」

「お子さんは、いくつなんですか?」

「えっ、私が子持ちに見えるわけ?」

「失礼しました……」

「いや、だからたいへんなのよ!」

「?」

「あなたね、このおじいさん、いくつだかわかってる?

わたしもよく知らないけれど、きっとすごい年よ。

だから、ほら、いつ、あれしちゃうかもしれないでしょ」

「おいおい、わたしのこと、ずいぶんな言いようだね」

「だけど、ほんとよ。永遠になんて無いのよ。

そうなったら、だれが信じる?

わたしが、会った、ほんとにいた、って言うしかないでしょ」

「あの、ホットミルク。お熱いので気をつけて」

「うちの両親だってさ、もう年だから、工務店、たたむって。

土地から売って、老人ホーム入るって。

じゃあ、わたし、どうすんのよ?」

「いっしょにお住まいなんですか?」

「お住まいどころか、わたしが働いてんの!

使っていた大工さんたちが、みんな引退しちゃったから、

見よう見まねでさ、結局、いま、わたしひとりよ。

それだって、もう大手の下請けの手間仕事ばっか。

ま、たしかに先は見えないけどさ、

わたしががんばってるのに、やめるはないでしょ!」

「それは、困りましたね」

「でしょ。どうすんの、わたし?」

「いまちょうど、このオーナーも、このホテルを閉める話をしてたんだよ」

「え、オーナーなの? 雇われじゃないの?」

「まぁ、こんな古い小さなホテルですけど」

「なんで、閉めるの? 来年、困るじゃない!」

「あちこち、もう傷んでまして」

「そう? そりゃ新しいとは言えないけれど、

躯体はしっかりしてるじゃない? もったいないなぁ」

「いや、このあたりも、もう高齢化で、

知り合いの工務店さんもみんなやめてしまって……」

「……部屋、あるんでしょ?」

「ええ、まあ、ホテルですから」

「食事は?」

「それは、私がいつも」

「じゃ、話は決まった。わたしが直す」

「え?」

「材料費だけでいいわ。小遣いは近所の別荘でも修繕して稼ぐから。

ただし、部屋と食事は、ずっとタダね。

それから、わたしをぜったいに追い出さないこと」

「それでいいんですか?」

「いや、だって、わたし、ほかに行くとこ、無いんだもん」

「ずいぶんかんたんに決めるねぇ」

「あのね、チャンスは即断即決がたいせつなの!」

「チャンスですか……」

「いい? このおじいちゃんが証人よ。約束は守って」

「ははは、わかった、わたしが証人になるよ。

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純丘曜彰 教授博士

大阪芸術大学 哲学教授

美術博士(東京藝大)、文学修士(東大)。東大卒。テレビ朝日ブレーン として『朝まで生テレビ!』を立ち上げ、東海大学総合経営学部准教授、グーテンベルク大学メディア学部客員教授などを経て現職。

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