/ふつうは12個も集めたら、卒業するだろ? なのに、良い子のまま、ぜんぶだよ。いまの時代についていけない、大人のなりそこねだな。でも、みんな、ここに来て、昔の話をするんです。自分は部屋に入って来たところを見た、とか、飛んでいった、とか。/
「え?」
「いや、お客は、そこそこ来てくれているんですが、
もう建物がだいぶ傷んできていて……」
「……そうか。直して、どうにかならんのかね?」
「父が建ててから、もうだいぶになりますからね」
「でも、やめてどうするんだ?」
「ええ、春までに考えないと……」
「そうか……」
「それより、彼女、来ますかね?」
「あ、あの子か! 去年、見つかっちゃったからなぁ」
「ピックアップトラックで雪道を爆走して追いかけてきたんでしょ」
「ああ。今年は、後に気をつけて、そっと来たけどね」
「でも、彼女、ここ、知っちゃっているでしょ」
「まぁ、そうだな」
「なんか、去年、そこで、ずいぶん揉めていたみたいですけど、
だれなんです? 若い愛人?」
「バカなこと言わんでくれ。彼女も、むかしの常連だよ」
「それが、なんで?」
「あの子、小さいときから、いつも寝ないで起きて待っているんだよ。
目をまん丸にしてさ。
で、とっくに24個、コンプリートしたのに、
そこから先、いまも良い子なんだから、二巡目もよこせ、って」
「え? そんなに、どうするんですかね?」
「知らないよ、本人に聞いてみたらどうだ?
ほら、どうせそろそろ来るぞ」
「あ、あれ、あの車の音ですね」
「ほらいた!」
「いらっしゃいませ」
「メリークリスマス!」
「はいはい、おめでと」
「で、今年ももらいにきたわ。
ちゃんとわたしの家の方に寄ってくれればいいのに」
「いや、だって、きみ、年、いくつよ?」
「クリスマスに年なんか、関係ないでしょ」
「いやいや、そんなことはないよ」
「だからぁ、ほら、去年、ちゃんと話したでしょ。
で、ちゃんとくれたじゃない?」
「そうだけど、で、なに、きみ、今年もひとつだけもらいに来たわけ?」
「そうよ、だって、毎年、集めてるんだもん」
「いや、集めるたって、鋳型が24種類しかないんだから、
もう、ぜんぶ持ってるでしょ」
「ちがうんだって!
24年前にもらったのと、今年もらうんじゃ、別ものよ」
「あの…… よろしければ御注文を」
「あ、そうね、じゃ、わたしも同じの。甘くして」
「はい。あと、よかったら、ジンジャーブレッドも」
「ああ、ありがと。
あれ? あなたも持っているんだ」
「ああ、棚のあれですか」
「手紙は?」
「手紙?」
「ほら、これ。この人の直筆よ! すごいでしょ!」
「ああ、でも、それ、うちのホテルの便箋で……」
「えっ! あっ! なにこれ! 住所、書いてあるじゃない!
去年、すっごい苦労して、追いかけてきたのに!」
「手紙まで持っているのに、なんでまだ……」
物語
2018.12.21
2019.12.17
2020.08.01
2020.12.23
2021.04.17
2021.12.12
2022.12.14
2022.12.28
2023.12.19
大阪芸術大学 哲学教授
美術博士(東京藝大)、文学修士(東大)。東大卒。テレビ朝日ブレーン として『朝まで生テレビ!』を立ち上げ、東海大学総合経営学部准教授、グーテンベルク大学メディア学部客員教授などを経て現職。