顧客満足度調査やNPS(Net Promoter Score)調査を行っている企業が増えたと同時に、調査結果をうまく活かせずに苦労しているという声をよく聞くようになりました。「CS・NPS調査はしているが、結果をレポートするだけで、次の一手に繋がっていない」「CS・NPS調査から、当たり前なことしか読み取れず、価値ある気付きが得られない」という具合です。どうしたらCSやNPSの調査をやりっぱなしにせずに、次の一手に繋げられるようになるのでしょうか。
事前期待で分析すれば良い
答えはシンプルです。サービスや顧客満足の本質である「事前期待」の観点を加えるのです。顧客の事前期待によって、価値あるサービスの姿や対応方法は異なるはずです。しかし実際には、CS・NPS調査で顧客の事前期待を知るための項目が入っていない企業がほとんどです。つまり、様々な事前期待の顧客を十把一絡げにして分析してしまっているのです。これでは、当たり前な内容の考察しかできなかったり、間違った解釈をしてしまう恐れがあります。
例えば顧客の中には、何よりもスピードに期待して利用した顧客と、スピードは気にしないので丁寧に対応してほしいという事前期待で利用した顧客がいるとします。このどちらの顧客も、顧客アンケートのスピードに関する項目には「遅かった」と答えたとします。この場合、スピードに期待して利用した顧客の「遅かった」という評価は重要課題として解釈すべきです。一方で、スピードよりも丁寧な対応に期待していた顧客の「遅かった」という評価はどうでしょう。もしかすると、「スピードはどうでしたか」という質問項目があったので答えただけで、顧客自身は対して気にしていない可能性が高いと言えます。こちらのタイプの顧客からの「遅かった」という評価は、割り引いて考察すべきです。むしろ、対応の丁寧さや柔軟さの方の評価項目に重きを置いて考察すべきなのです。
このように、顧客の事前期待によって、重視すべきポイントは変わります。しかし、事前期待を捉えずに評価結果を合算してしまうと、「遅いと言っている顧客の数が一番多いから、もっとスピーディーにサービス提供しなければ」という考察になってしまいます。実際にスピードアップしても、「スピードよりも丁寧さ」を期待していた顧客からの評価が下がってしまったり、顧客を失ってしまうという逆効果も生まれてきます。これは、自分たちのサービスの価値を磨いて顧客満足や推奨意向を高めるどころか、「早い・安い・うまい」のように、他のサービスとの均質化が進んでしまい、価格競争の泥沼に沈んでしまいます。
言われてみれば当たり前なことですが、この「事前期待」を捉えていないことで、CS・NPS向上の盲点が生じたり、自己満足なCS・NPS向上になってしまうのです。
そこで、これまでの調査項目に、顧客の事前期待を知るための項目をいくつか追加してみると良いでしょう。「どういう事前期待をもった顧客が、どんな評価をしているのか」これが分かれば、その評価を高めるためには次の一手で何をすべきかが、今まで以上にクリアになります。
service scientist's journal(サービスサイエンティストジャーナル)
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松井サービスコンサルティング ・サービスサイエンティスト
サービス改革の専門家として、業種を問わず数々の企業を支援。国や自治体の外部委員・アドバイザー、日本サービス大賞の選考委員、東京工業大学サービスイノベーションコース非常勤講師、サービス学会理事、サービス研究会のコーディネーター、企業の社外取締役、なども務める。 代表著書:日本の優れたサービス1―選ばれ続ける6つのポイント、日本の優れたサービス2―6つの壁を乗り越える変革力、サービスイノベーション実践論ーサービスモデルで考える7つの経営革新