今、多くの企業がサブスクリプション型サービスの開発や展開に熱心に取り組んでいますが、“契約しやすく・解約しにくい”顧客不在の残念なサービス設計も散見されます。サブスクリプションを「顧客の囲い込み手法」と思っている企業も少なくないようです。当然ながら、何でもかんでも定額制にしたらうまくいくわけではありません。サブスクリプション型サービスの成功確率を高めるサービス設計には、どのようなポイントがあるのでしょうか。
最近、サブスクをどう捉えていますか?と聞かれることが増えました。最近、「〇〇サブスク」というサービスを目にする機会が増え、社内でも「サブスク」の議論をしているけれど、議論がかみ合わなくてモヤモヤしているという方は多いのではないでしょうか。
“サブスクリプション”の詳しい説明は割愛しますが、簡単に言えば、モノを購入するのではなく、定額料金を支払い利用する権利を得るサービスのことです。これは顧客にとってみれば、定額制のため安価に利用を開始できて、必要なときにサービスを利用できるメリットがあります。もちろん、モノを購入しない(手元にモノが残らない)ために解約したら機能を利用できなくなったり、全く使わない期間があっても定額料金を支払い続けなければならなかったりと、デメリットもありますが。
このサブスクリプションを“顧客の囲い込み手法”だと思い込んで、サービスを開発・運営している企業は意外に多いようです。「囲い込まれたい!」と思っている顧客なんているのかどうかを考えれば、この提供者都合の考え方でサブスクリプションを捉えても、うまくいかないのは当然の結果と分かります。
さて、 “サブスクリプション”の本質とは何でしょうか。それは『サブスクリプションは、いったい顧客に何を約束するサービスモデルなのか?』を理解することです。お得に何かが使いたい放題になったり、定期的に何かを届けることを約束しているのでしょうか。そうではありません。サブスクリプションが顧客に約束するのは、「顧客の事前期待に応え続けること」です。サブスクリプションサービスが打ち出している、何かが使い放題・食べ放題になることや、定期的にステキな何かが届くことなどは、あくまでも事前期待に応えるための手段であって、そのサービスの価値の本質ではないのです。
よくあるサブスク失敗事例に、同じものを定期的に届け続けるタイプのサービスが挙がりますが、これこそサブスクリプションが事前期待に応え続けることを約束するサービスモデルであることを示しています。事前期待に応え続けるためには、同じことを続けていてはいけないのです。なぜなら、顧客のサービス利用経験が積み重なれば、顧客は成長し、顧客の事前期待の質が変化するからです。
サービスの価値は「どういう事前期待に応えるか」によって、ガラリと変わります。サブスクリプションのサービス設計には、この観点が抜けがちです。サブスクリプションサービスを設計しようと思ったら、まずは「どういう事前期待に応え続けること」を価値とするのか、事前期待の的を見定めることが重要なのです。そして、顧客経験の積み上げと共に進化する事前期待をサービス設計に組み込んで、事前期待をマネジメントすることが大切です。
service scientist's journal(サービスサイエンティストジャーナル)
2023.03.07
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松井サービスコンサルティング ・サービスサイエンティスト
サービス改革の専門家として、業種を問わず数々の企業を支援。国や自治体の外部委員・アドバイザー、日本サービス大賞の選考委員、東京工業大学サービスイノベーションコース非常勤講師、サービス学会理事、サービス研究会のコーディネーター、企業の社外取締役、なども務める。 代表著書:日本の優れたサービス1―選ばれ続ける6つのポイント、日本の優れたサービス2―6つの壁を乗り越える変革力、サービスイノベーション実践論ーサービスモデルで考える7つの経営革新