「価値共創」という言葉がよく使われるようになりました。“共創“は顧客と協働することだと、顧客と一緒になった取り組みに熱心な企業が増えています。これ自体は大変素晴らしいことだと思いますが、その多くが「価値共創」ではなく、「適応」に過ぎないという実状があります。「価値共創」の本質とは何なのかを、「適応」との違いにも注目しながら、再考します。
「価値共創」とは言葉の通り、顧客と一緒になって価値を創造することを指します。“価値を創造する”とはどういうことなのかを理解するには、サービスの価値は何によって決まるのかを理解しなければなりません。サービスの定義は、「人や構造物が発揮する機能で、顧客の事前期待に合致することをサービスという」としています。つまり、顧客の事前期待にこたえることだけが「サービス」であるということです。つまり、サービスを提供しようと思ったら、「何をしたら良いか?」と具体策を考える前に、「どんな事前期待に応えたらよいか?」を考えるべきだということです。つまり、サービスの価値は、そのサービスが応える「事前期待」で決まると分かります。
このことから、“価値を創造する”とは、“事前期待を創造する”ということだということになります。つまり「価値共創」は、顧客との協働を通して、事前期待の創出・喚起・成長・強化といった形で、事前期待に進化が生じることが極めて重要です。顧客との協働によって事前期待が進化すれば、それに応えることで、サービスの価値も進化します。これが「価値共創」のポイントです。
一方で「適応」は、顧客との協働はしてるとしても、顧客の要望やニーズに応えるだけで、事前期待そのものが進化ません。いつも同じ事前期待に応え続けるため、“価値を創造している”とは言い難い状況です。もちろん、顧客の事前期待に適応することで、スムーズにサービス利用が進むようにはなりますが、結局サービスの価値が進化しないため、いずれ飽きられてしまったり、他社からのアプローチですぐに顧客が去って行ってしまいます。「価値共創」ができるサービスと、「適応」しかできていないサービスとで、顧客基盤の強さや事業としての成長力に大きく差がつきます。そしてその差は、時間と共にどんどん開いていくのです。
こうして「価値共創」と「適応」の違いを明確にしてみると、「ドキッとしました。うちは顧客と協働しているものの、“適応”にしかなっていませんでした。」と仰る企業が多くあります。「価値共創」の本質を捉え直して、事前期待の進化を促すような価値共創活動をテコ入れし、時間を味方につけてサービスの付加価値をどんどん積み上げることで事業の成長力や競争力を強化する。スローガンとしての「共創」から、事業に実装する「共創」へと、ステージアップしましょう。
service scientist's journal(サービスサイエンティストジャーナル)
2022.10.17
2023.03.07
2023.03.13
2023.04.03
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2023.04.21
松井サービスコンサルティング ・サービスサイエンティスト
サービス改革の専門家として、業種を問わず数々の企業を支援。国や自治体の外部委員・アドバイザー、日本サービス大賞の選考委員、東京工業大学サービスイノベーションコース非常勤講師、サービス学会理事、サービス研究会のコーディネーター、企業の社外取締役、なども務める。 代表著書:日本の優れたサービス1―選ばれ続ける6つのポイント、日本の優れたサービス2―6つの壁を乗り越える変革力、サービスイノベーション実践論ーサービスモデルで考える7つの経営革新