「CSはもう古い」の真意の1つとして、成果に直結するCSの種類、つまり成果への分岐点にフォーカスして、「とにかく少しでも顧客満足を高めよう」という”心がけのCS”からは卒業して、成果の出ないCSから脱却しようという伸びしろがありました。そしてもう一つ、CSに手当たり次第に取り組んでしまうCS闇雲問題からも脱却しなければなりません。
「CSはもう古い」という言葉に込められた問題意識として、CSとしての「次の一手」で何をしたら良いか分からないという悩みがあります。「感動サービスだ」とスローガンを掲げて、その実現は現場に丸投げしてしまう。精神論や根性論で現場や個人に任せきりの闇雲なCS活動から脱却したいという思いがそこにはあります。そこで登場するのが、CX(カスタマーエクスペリエンス)というわけです。CX(カスタマーエクスペリエンス)は、製品やサービスの購入や利用の様々なプロセスで得られる体験を価値とするものです。
顧客はサービスの「成果」と「プロセス」の両面を評価して、顧客満足や推奨意向を実感しています。サービスの「成果」とは、たとえばサービスのメニューや機能であったり、価格やコストパフォーマンス、対応のスピードなのですが、これらは既にコモディティ化していて、同業他社と差がつきにくい傾向があります。よって、サービスの「プロセス」に対する評価を高めることが、価値向上や差別化のカギとなります。このサービスの「プロセスの評価」がまさに「体験価値・経験価値」であり、CX(カスタマーエクスペリエンス)の着眼点というわけです。
つまり、CSとCXの関係はというと、リピートや推奨意向に直結する「感情的な大満足」というCS評価を得るためには、サービスの「プロセス」の評価、つまりCXである経験価値を高める必要があるということです。メニューや機能、価格といったサービスの「成果」の評価を高めるだけでは、「論理的な大満足」のCS評価までは得られても、「感情的な大満足」には至らないのです。
では、経験価値を高めるにはどうしたら良いのか?そこでCXでは、「カスタマージャーニーマップ」という経験価値を高めるためのプロセス設計を行います。これを実行することで、組織的に経験価値の高いサービスを実現しようというものです。実はカスタマージャーニーマップを描いたけれど、絵に描いた餅になってしまったり、実践しても成果が出ないというご相談をよく頂きます。実は、作成されたジャーニーマップを拝見すると、サービスやCSの本質への理解が欠けているケースが多いです。それは「事前期待」です。顧客満足は「事前期待」より「実績評価」が大きければ大満足になり、逆に「事前期待」より「実績評価」が小さければ不満になります。つまりCSは、事前期待と実績評価の相対関係で決まっているのです。よって、CSを高めるためのサービス設計(たとえばカスタマージャーニーマップ)は、顧客にとって価値ある事前期待に応えるものでなければなりません。しかし、多くの場合、この事前期待をカスタマージャーニーマップの中で定義せずに、提供者の都合で設計されてしまっているのです。是非、事前期待の的を見定めて、そこに向かってCSの次の一手を設計したいものです。
話しが少し反れましたが、このように、CSを高めるCXサービスを「設計する」というアプローチを取ることで、これまでの闇雲で現場任せなCSから卒業して、組織的で納得感の高いCSへとステージアップすることが求められているのです。「設計のないCSはもう古い。」付加価値型のサービスを設計し、組織的に実践して成果を生みだしていくような、ロジカルで納得感の高い、組織的なCSに進化したいものです。
service scientist's journal(サービスサイエンティストジャーナル)
2022.10.17
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松井サービスコンサルティング ・サービスサイエンティスト
サービス改革の専門家として、業種を問わず数々の企業を支援。国や自治体の外部委員・アドバイザー、日本サービス大賞の選考委員、東京工業大学サービスイノベーションコース非常勤講師、サービス学会理事、サービス研究会のコーディネーター、企業の社外取締役、なども務める。 代表著書:日本の優れたサービス1―選ばれ続ける6つのポイント、日本の優れたサービス2―6つの壁を乗り越える変革力、サービスイノベーション実践論ーサービスモデルで考える7つの経営革新