サービスの「バラツキ」をなくそうと努力している企業は多いと思います。サービスのバラツキは、本当に「悪」なのでしょうか。「バラツキは悪」という考え方が、サービスの価値向上を阻害しているかもしれません。
得点を増やすにはバラツキが重要
得点を増やすための取り組みでは、顧客満足評価や、リピートや推奨の意向を高めるような取り組みが主になります。ここでは、顧客ごとに異なる個別的な事前期待や、状況で変化する事前期待、潜在的な事前期待に柔軟に応えることが有効です。これら顧客ごとに異なるような事前期待には、一律サービスをいくら磨き上げても対応しきれません。つまり、顧客の事前期待に合わせて、個別サービスを磨く必要があるのです。この場合、サービス提供者のアクションのバラツキは、顧客の事前期待の違いに対応したものであれば、むしろ価値あるバラツキといえます。
しかし「サービスのバラツキは無くすべき」という価値観では、こういった価値あるバラツキまで削り落としてしまうことが多々あります。あるいは、失点撲滅型マネジメントを重視するあまり、顧客ごとに異なる期待に応えようとする努力を「余計なこと」のように扱ってしまい、現場がサービスマインドを発揮する気を失わせてしまっていることもあります。いつの間にか、顧客の期待に応えることよりも、上司に叱られないように、決められたことをキッチリこなすことばかり重視する組織になってしまっていることすらあるのです。
得点を増やすための取り組みがうまく機能している企業では、顧客ごとの期待に対応した価値あるバラツキを評価することに重きを置いています。得点型のサービス品質評価や成功事例の共有が積極的に行われ、サービスの社内表彰制度も充実しています。また、顧客ごとの期待を捉えて柔軟に対応するための人材育成や権限移譲も行われています。このように、「得点型のサービスマネジメント」を重視することで、現場も存分にサービスマインドと実力を発揮でき、成果を生んでいるのです。
このように、得点を増やす目的の取り組みであれば、顧客の事前期待に合わせた対応の違いは「良いバラツキ」であると言えます。この「良いバラツキ」に着目して、それを個人芸ではなく、組織的に実践できるようにモデル化できると、より多くの顧客から、より高い評価を頂けるようになります。「バラツキは悪」というレッテルを剥がして、サービスの価値の高め方を見つめ直してみましょう。
service scientist's journal(サービスサイエンティストジャーナル)
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松井サービスコンサルティング ・サービスサイエンティスト
サービス改革の専門家として、業種を問わず数々の企業を支援。国や自治体の外部委員・アドバイザー、日本サービス大賞の選考委員、東京工業大学サービスイノベーションコース非常勤講師、サービス学会理事、サービス研究会のコーディネーター、企業の社外取締役、なども務める。 代表著書:日本の優れたサービス1―選ばれ続ける6つのポイント、日本の優れたサービス2―6つの壁を乗り越える変革力、サービスイノベーション実践論ーサービスモデルで考える7つの経営革新