米共和党予備選挙でリズ・チェイニー議員が落選したことの意味合いは小さくない。共和党の劣化と共和党支持者の堕落を象徴するものであり、世界の混乱の火種を育てるものでもある。
しかしトランプ支持か反対かというのは全く別の価値観だ。トランプ支持派の心情が象徴するのは「反エスタブリッシュメント」「反大企業」「反大都会」であり、「反グローバリズム」「反金融主義」だ。
要は、本来論点になっているはずの「トランプがけしかけた『連邦議会襲撃事件』こそが選挙結果を盗もうとした行為であり、それを許したら米国の民主主義は死んでしまう」というチェイニー氏らの主張は、大半の共和党員の頭からはとうに吹っ飛んでしまっており、「地方に住む私らの気持ちに寄り添うのか、それとも大企業の味方なのか」というトランプ派の提示する二者択一なのだ。
彼らの頭の中では、民主主義の選択という本来の合理的投票ではなく、むしろ「ワシらか都会モンか、どっちの味方なんだ」という感情的選択なのだ。残念ながら、民主主義国家の選挙民としては完全に堕落している。
今回のワイオミングでの予備選挙の結果、トランプの「威光」はますます共和党内で強くなり、2024年の大統領選挙に彼が再出馬する可能性はどんどん高まっている(FBIの捜査の進展次第で公職選挙に出られなくなる可能性も結構残されているが)。
小生はトランプが仮に共和党の大統領候補になったとしても2024年の大統領選挙で当選する確率はまだまだ低いと思ってはいるが、少なくとも彼が予備選に出馬することで来年(2023年)を通じて共和党内での政策議論は深まることなく、ましてやトランプが最終的に再び大統領候補となった日には2024年での大統領本選挙は大いに混乱を極めると懸念している。
それは中国・ロシアの「独裁政権同盟」が世界をかき回し続ける状況に対し、戦略的に有効な対抗策を打ち出すほどには米国内がまとまらない(代わりに国内イシューにだけ目を向ける)ということを意味する。つまり一種の機能不全に陥るのだ(前回、前々回の大統領選挙の時期がまさにそうだった)。
それはすなわちEUと日本が、巨大な潜在敵に脅かされながらも有効な対策を講じることができないまま、(正気を取り戻した米国が戻ってくるまで)かなり不安定な情勢に置かれ続けるということだ。
そしてそういう曖昧な状況を利用して、例えば中国政府が台湾に今まで以上に悪辣な嫌がらせを仕掛けるかも知れないし、自国に進出済の日本企業に対し好き放題の無理難題を押し付けることが頻発するかも知れない。韓国は再び腰砕けして(日米への接近を急転回して)中国に膝を屈するかも知れない。ロシアだって「トランプが復活するまで我慢すればいい」と、ウクライナから撤退する決断を先送りするだろう。
実に困ったものだ。
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パスファインダーズ株式会社 代表取締役 社長
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