今の公的年金制度だけでは国民の老後を支えることはできない。この現実を直視するならば、移民政策を変更することと、国民全般に貯蓄と投資の自助努力を促すことは必須だ。
「老後2,000万円問題」というのをご存じだろうか。金融庁の金融審議会「市場ワーキング・グループ」による「老後20~30 年間で約1,300 万円~2,000 万円が不足する」という試算を発端に物議を醸した、「いかに老後の資金を形成するか」をめぐる問題のことだ。
「物議を醸した」としているが、正しい問題提起をした金融審議会の関係者を与党の政治家たちが袋叩きにしたのだ。この問題をあまり重大だと認識していなかった不勉強な政治家は「ワシは知らなかったぞ、なぜもっと前に教えてくれなかったのだ」と文句を垂れ、重大だと認識していた政治家は「なぜワシらに知恵や解決能力がないことをバラすんだ」と怒った、というのが真相だ。
ここには2つの大きな問題が隠されている。一つは、今の公的年金制度が大多数の国民の老後を支える柱とはなり得ないこと。そしてもう一つは、その解決策としては国民に大きな痛みを伴う覚悟をしてもらわなければならないのに、政府・与党は正面から向き合おうとしていないことだ。
一つ目の、「今の年金制度が大多数の国民の老後を支える柱とはなり得ないこと」については既に、長年にわたって色々な論考・分析がなされている。
政府・厚労省の公式説明とは裏腹に、1)マクロ経済スライドが予定通り発動されていないが故に、結果的には年金制度の持続性に疑念を持たれる状況が続いているということ。また、2)基礎年金について、だらだらと給付水準が引き下げられる見通しになっているということ。この2つが相まって公的年金制度に対する疑念、ひいては多くの国民の将来不安を巻き起こしていると言えるだろう。
そして二つ目の「政府・与党は正面から向き合おうとしていないこと」についてだが、こうした公的年金制度に対する不安を口には出せない政府関係者でも、さすがに無責任に「何も心配しなくて今まで通りで結構」と言っている訳にはいかない。そのため国民には「ちゃんと貯蓄をした上で資産を増やす」よう促すための金融制度の施策(例えばNISAの拡充など)は進めている(ただしあまり危機感を煽る訳にもいかず、「富裕層優遇だ」という批判も怖いため、随分と回りくどい説明ではあるが)。
今まで無策に近かった政府がこうした動きを強めていることから分かるように、実は公的年金制度の改革は待ったなし、時間との勝負なのだ。そしてその崩壊の兆しはそこかしこに現れている(何だか地球の気候変動と似ている…)。
社会インフラ・制度
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パスファインダーズ株式会社 代表取締役 社長
パスファインダーズ社は少数精鋭の戦略コンサルティング会社です。「新規事業の開発・推進」「既存事業の改革」「業務改革」の3つを主テーマとした戦略コンサルティングを、ハンズオン・スタイルにて提供しております。https://www.pathfinders.co.jp/ 弊社は「フォーカス戦略」と「新規事業開発」の研究会『羅針盤倶楽部』の事務局も務めています。中小企業経営者の方々の参加を歓迎します。https://www.pathfinders.co.jp/rashimban/ 代表・日沖の最新著は『ベテラン幹部を納得させろ!~次世代のエースになるための6ステップ~』。本質に立ち返って効果的・効率的に仕事を進めるための、でも少し肩の力を抜いて読める本です。宜しければアマゾンにて検索ください(下記には他の書籍も紹介しています)。 https://www.pathfinders.co.jp/books/