先月、逝去された元ザッポス社CEOトニー・シェイの追悼ブログ。今回は、『ザッポスの奇跡』の出版をめぐる裏話を綴っています。『ザッポスの奇跡』は世界初のザッポスについての研究本でした。
本の出版について、もうひとつ、誇りに思っていることがある。自費出版だから、自らマーケティングしなくては広がらないだろうということはわかっていた。そこで、「書評ブロガー」たちに個別にアピールすることにした。ビジネス書ブログのアクセスランキングを頼りに人気のブロガーさん一人ひとりにメールを書き、快諾してくれる人にはこつこつと献本をした。
そして、毎日のように『ザッポス』、または『ザッポスの奇跡』というキーワードで検索をかけ、ツイッターでのつぶやきやらブログやらに徹底的に反応していった。「著者さんから直々にお返事をいただいた!」と大変感激された。ありがたいことに、そういった出会いがきっかけで今日まで続いているご縁もある。このようにして、「ゲリラ的」に『ザッポスの奇跡』は広がっていった。
当時、そんなマーケティングの仕方をしていた人たちは私たちくらいしかいなかったのではないか。その後、新しい本を出した際に「ネットでのマーケティングってどうしたらいいのですか」と出版社からアドバイスを求められたほどだ。
時間と労力を要する地道な取り組みだったが、そのおかげで、心温まる出会いがたくさんあった。普通の出版だったら経験できなかったようなことだ。『ザッポスの奇跡』についてウン千というコメントがネットに寄せられた。ある企業では社員全員が感想文を書いてオフィス宛てに送ってくれた。200通ほどあったがそのすべてに個別のお返事を書いた。思えば、これは、「コンタクトセンターに寄せられるコールの一つひとつに、生涯続くつながりのはじまりとして向き合う」というザッポスのアプローチに通じるものがある。
『ザッポスの奇跡』を出版する前に、全体を英訳して「ファクト・チェック」のためにザッポスに提出した。それを読んだトニーの感想は「僕も知らないことがあった」というものだった。ザッポスでは各部門、部署やチームが自らの裁量で行っている取り組みもあるので、CEOであるトニーも知らないことがある。外部から俯瞰的な目で見ることではじめて可視化できた取り組みがあったということだろう。
また、出版後しばらくして、報告のためにザッポスを訪ねた。それまでに寄せられたコメントを印刷して二冊の大きなバインダーにまとめたものをトニーに見せた。あなたの会社が日本の読者にもこんなにも多大なインパクトを与えているよ、ということを見せたかったのだ。
せっかく英訳も作ったので英語での出版も検討していたが、ザッポスの広報から、「トニーの本が出るまで英語版は見合わせてほしい」との要請を受けた。それはトニー自身の意向ではなかったと思うが、出版社の手前、私の本『ザッポスの奇跡(The Zappos Miracle)』がトニーの本より先に出てはまずかったのだろう。結局、「電子版だけならOK」と承諾をもらい、『ザッポスの奇跡(日本語版原書)』の出版が2009年11月、英語版キンドル『The Zappos Miracle』が2010年4月、トニーの『Delivering Happiness』が2010年6月という並びとなった。『ザッポスの奇跡』はザッポスに関する世界初の研究本だったのである。
企業文化
2020.08.20
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ダイナ・サーチ、インク 代表
ダイナ・サーチ、インク代表 https://www.dyna-search.com/jp/ 一般社団法人コア・バリュー経営協会理事 https://www.corevalue.or.jp/ 南カリフォルニア大学オペレーション・リサーチ学科修士課程修了。米国企業で経験を積んだのち、1982年に日米間のビジネス・コンサルティング会社、ダイナ・サーチ(Dyna-Search, Inc.)をカリフォルニア州ロサンゼルスに設立。米優良企業の研究を通し、日本企業の革新を支援してきた。アメリカのネット通販会社ザッポスや、規模ではなく偉大さを追求する中小企業群スモール・ジャイアンツなどの研究を踏まえ、生活者主体の時代に対応する経営革新手法として「コア・バリュー経営」を提唱。2009年以来、社員も顧客もハッピーで、生産性の高い会社を目指す志の高い経営者を対象に、コンサルティング・執筆・講演・リーダーシップ教育活動を精力的に行っている。主な著書に、『コア・バリュー・リーダーシップ』(PHPエディターズ・グループ)、『アメリカで「小さいのに偉大だ!」といわれる企業のシンプルで強い戦略』(PHP研究所)、『ザッポスの奇跡 改訂版 ~アマゾンが屈した史上最強の新経営戦略~』(廣済堂出版)、『未来企業は共に夢を見る ―コア・バリュー経営―』(東京図書出版)などがある。