日本は先進国で唯一、新型コロナウイルス検査の実施に関してずっと消極的だった。その理由が詳しく政府から説明されたことはないが、概ね類推できる。その消極策は、「思い込み」と「工夫の放棄」によってもたらされた「大失策」かも知れない。
第一に、現実問題として検査実施のボトルネックが大きかったので、「やりたくてもできない」という側面があったのは事実だ。
1つ目のボトルネックはPCR検査機(それなりに高価な機械だ)の数、2つ目のボトルネックは検査機を取り扱って判定できるスタッフ数、この両方とも限られていることだ。そして仮にこの2つを増やしても、検査結果が判明するのに時間が掛かることが3つ目のボトルネックだ。当初は数日、今でも一両日は掛かっている模様だ。
だから一挙に感染疑いのある人達がそれらの機関に押し寄せてきても処理し切れないことは目に見えていた。今月6日になってようやく、1日2万件の処理能力に倍増することを政府は宣言したが、緊急事態宣言の直前では「今さら」の感は否めない。
第二の理由として、(世界の趨勢に反して)検査をする意義に疑問を呈する専門家の意見が対策専門家会議では少なくなかったようだ。実はこれが、厚労省が新型コロナウイルスの検査に積極的でない最も大きな理由かと思われる。
それはありていに言えば、「(簡易検査もフル稼働させて)片っ端から検査してしまうと、判明した感染者が急増したら入院させないといけない。そうなれば治療法がないのだから感染症対応の病院ベッドがすぐに満床になってしまい、本当に対応しなければいけない重症患者が入院できず、措置できなくなってしまうじゃないか」という意見だ。
この背景には「感染症法」(感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律)の存在がある。新型コロナウイルスは既に感染症法の対象に指定されているが、この法律では感染が判明した患者に対しては入院勧告を行うことが明記されている。つまり強制的に入院させる義務がある訳ではないけれど、お医者様から「入院をお薦めします」と言われれば、大概の人は応じるだろう。
そして新型コロナウイルスに関して病状悪化のリスクがよく分からない初期段階ではもちろん、その後も急速な症状悪化の事例も報告されているので、大概の医師が、軽症だろうが未発症だろうが、まずは入院を薦めていたはずだ。
今や感染症対応の病院ベッドがまもなく満床にならんとしている東京周辺ではこの認識は大いに変化しつつあり、軽症や未発症だったら病院ではなく自宅か借り上げた宿泊施設で様子を見てもらえばいいじゃないか、という話になっている。
でも感染が急拡大する前の段階では厚労省にも感染対策専門家にもそうした発想があまりなく(つまり「入院させないといけない」という思い込みが強く)、検査体制だけ拡張することに厚労省は否定的だったと考えられる。
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パスファインダーズ株式会社 代表取締役 社長
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