自動運転のレベル3が想定する「緊急時にはシステムがドライバーに介入を要求し、ドライバーはこれに『適切に』応答する」などというのは現実世界では想定すべきではないもので、言ってしまえば「たわごと」だ。
米国の「自動車技術会」(SAE)が示した基準によると、自動運転のレベル3(条件付き運転自動化)の口語的定義は「運転自動化システムが全ての動的運転タスクを限定領域において持続的に実行。この際、作動継続が困難な場合への応答準備ができている利用者は、他の車両のシステムにおける動的運転タスク実行システムに関連するシステム故障だけでなく、自動運転システムが出した介入の要求を受け容れ、適切に応答することが期待される」とされている。日本での適用もこれに準ずる見込みだ。
自動運転レベル3とは簡単に言えば、全ての自動運転をシステム側が行うものの、緊急時には運転手が運転操作を担うという状態を指す。レベル2との大きな違いは、通常はシステム側の責任において全ての自動運転が行われるという点だ。
字面だけでは「ふーん、そうなの」とあっさりと納得してしまいそうになるが、上に記述されていることはなかなか意味深だ。普段はシステム側に責任があるが、システム故障が起きた場合や、自動運転システムから「介入して」と要求があった緊急の場合には、ちゃんと運転を受け持つ準備ができている責任がドライバーにあるという意味なのだ。
これがどういうことかよく考えて欲しい。以下の状況シミュレーションが役に立つだろう。
あなたは高速道路で自動運転車を「運転」している。実際には自動運転システムに運転を任せて、あなたは外の景色や好きな音楽、あるいは家族との会話を満喫しているだろう。一応前方を何となく見てはいるが、ハンドルからは手を離し(多分、ブレーキペダルからも足を離して)、何の問題もないまま30分ほど経過した。
そんなとき突如として車内にアラーム音が鳴り響き、システムが「緊急事態です!運転を代わってください」と合成音で要請する。あなたがはっと前方を見つめると、目の前に遅いスピードでやや蛇行しているクルマが見える。あなたは急遽ハンドルを思いきり右に切るが、そのせいですぐ右を走っていた他のクルマを弾き飛ばしてしまい、そのクルマは中央分離帯に乗り上げてクラッシュしてしまった。
ほんの少しの間に生じたとんでもない事態に驚きながらも、蛇行していたクルマを追い抜いてから左路肩に自車を寄せたあなたは、自分が引き起こした事故の様子を呆然と見つめる…。
さてこの場合、あなたは多分、「業務上過失致〇〇罪」(事故の深刻さによって〇の部分は変わる)といった名称の罪に問われる可能性が高い。自動運転システムにはあなたに運転介入を要請した記録があり、したがってクルマメーカーはあなたに全責任を引き渡したと主張するだろう。そして交通事故を担当する検事は「右隣に十分な注意を払わずに過度にハンドルを切った被告人の全面的過失だ」と主張するだろう。さてあなたは納得できるだろうか?
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パスファインダーズ株式会社 代表取締役 社長
パスファインダーズ社は少数精鋭の戦略コンサルティング会社です。「新規事業の開発・推進」「既存事業の改革」「業務改革」の3つを主テーマとした戦略コンサルティングを、ハンズオン・スタイルにて提供しております。https://www.pathfinders.co.jp/ 弊社は「フォーカス戦略」と「新規事業開発」の研究会『羅針盤倶楽部』の事務局も務めています。中小企業経営者の方々の参加を歓迎します。https://www.pathfinders.co.jp/rashimban/ 代表・日沖の最新著は『ベテラン幹部を納得させろ!~次世代のエースになるための6ステップ~』。本質に立ち返って効果的・効率的に仕事を進めるための、でも少し肩の力を抜いて読める本です。宜しければアマゾンにて検索ください(下記には他の書籍も紹介しています)。 https://www.pathfinders.co.jp/books/