組織・人事に関わる全ての施策は、日本人の特性や自社の独自性への洞察なしには機能しない。それは、OSが違えば、アプリが動作しないのと同じである。欧米の真似でもない、うまくいっている会社の真似でもない、日本企業において本当に機能する組織・人事の考え方や施策について思索・指南する連載。
二つ目は、「強みの周知」である。強みを持つ個々が、自分だけ、自分の部署だけに埋もれていては組織全体で効果的に活用されることはない。だから、誰がどのような強みを持っているかを、組織全体に対して発信・表明する仕組み(システム)が必要になる。自社内にどんなタレントがいるのかを、人事部だけではなく全員が分るような仕組みだ。何かに困ったときにアドバイスやサポートを求められる相手が身の回りの人たちだけという状況では、強く柔軟な組織とは言えない。それぞれ差別化された強みを持つタレントたちが全社の様々なところにおり、彼らを探し出して助けを借りられる状況を作るようにする。当然、うまく探し出せないケースもあるだろうから、強みを募集する仕組みも要る。部門の枠を超えた協調的な仕事は、強みの発信・表明の仕組みと募集の仕組みの両方を機能させるのがポイントである。
三つ目は、「強みの柔軟な活用」だ。会社・人事部が行う定期的な人事異動が、顧客本位のタイムリーな組織編制を常に実現しているわけではない。今の体制が、顧客が求める内容やスピードに常に適しているわけでもない。顧客が求める内容を顧客が求めるスピードで提供するには、上司や本社が介入することなく、担当者が組織の枠を超えて全社から強みを調達し、自らチームを編成するくらいの柔軟性が必要だ。そうすることで、顧客満足を高めるとともに、せっかく持っている強みが発揮できない仕事についている人も減るだろう。部門長による囲い込みやセクショナリズムによって、強みの活用が阻まれるような状況も避けなければならない。
強みに焦点を当てたタレントマネジメントを実現するには、働く側の意識も変えていきたい。強みがなくても仕事は与えてもらえるものという「宮仕えパラダイム」、上司や先輩と同じように出来たいという「同質化パラダイム」は、そもそも強みに焦点が当っていないからタレントマネジメントが機能する可能性は低いだろう。謙虚は美徳、アピールは下品といった考え方も、強みを周知するのが難しくなるからタレントマネジメントの大きな障害になってしまう。【つづく】
新しい「日本的人事論」
2018.07.18
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NPO法人・老いの工学研究所 理事長
高齢期の心身の健康や幸福感に関する研究者。暮らす環境や生活スタイルに焦点を当て、単なる体の健康だけでなく、暮らし全体、人生全体という広い視野から、ポジティブになれるたくさんのエビデンスとともに、高齢者にエールを送る講演を行っています。