組織・人事に関わる全ての施策は、日本人の特性や自社の独自性への洞察なしには機能しない。それは、OSが違えば、アプリが動作しないのと同じである。欧米の真似でもない、うまくいっている会社の真似でもない、日本企業において本当に機能する組織・人事の考え方や施策について思索・指南する連載。
2.経営・マネジャーにとっての分母への取り組み
経営やマネジャーが、分母(販管費や給与等)を小さく(適正に)しようとするとき、もちろん人員数の最適化や人事制度の改定といった手段は王道だが、ワークライフバランスや「働き方改革」で再び注目されている「労働時間の短縮」は、もうそろそろ本気で解決しなければならない重要課題だろう。もうそろそろ・・と言ったのは、労働時間の短縮はもう30年以上も前から問題となっているからだ。実際、正社員の労働時間は30年間ほとんど変わっていない。
内閣府の経済社会総合研究所の調査(平成22年)でも、日本の正社員の労働時間の長さは明らかである。(やや古いデータではあるが、今もそう状況は変わらないだろう。)
グラフは、正社員の平日・勤務日の労働時間の国際比較だ。ドイツと比べれば毎日約2時間も長く働いているから、ドイツ人が8時間で出来ることを、日本人は10時間かかってやっているということになる。つまり、ドイツ人の労働の価値は、日本人を25%も上回っており、日本人の時給はドイツ人の8割にとどまっているという意味でもある。また、年間にすれば約500時間の差になるから、ドイツ人は2ヶ月休んでも、日本人と同じ成果を残しているということになる。
もちろん、これはドイツ人と日本人の個々の能力の差を表しているのではない。やらなくもよい業務、無駄や余計な作業、意味のない長い会議、多すぎる手続きなどに、毎日2時間を費やしまっているということである。来なくてもよい日(行かなくても仕事が回る日)でも出社するなど、有給休暇が取りにくいことなども影響しているはずだ。
分母を小さくするために、経営やマネジャーはやらなくもよい業務、無駄や余計な作業、意味のない長い会議、多すぎる手続きなどを徹底排除しなければならない。そのためには、人事制度で後押しをしてあげる必要もある。毎日2時間の労働時間の短縮は、働く側にとっては月10万円近い収入源につながるからだ。これでは、労働時間短縮は進まない。労働時間の短縮分を原資として賞与に上乗せするといった仕組みを導入し、早く仕事を終えるインセンティブが働くようにするのが肝要になる。
「ノー残業デー」とか「業務のたな卸し・見直し」などが、何の効果ももたらさないのは、この何十年で既に証明されている。また、ITによる業務効率化も、労働時間の短縮につながらないことは既に明白である。ドラッカーは、「誰にとっても優先順位の決定は難しくない。難しいのは劣等順位の決定。なすべきでないことの決定である」と言っている。また「劣等順位をつける際に重要なのは、分析ではなく勇気だ」とも言う。パーキンソンの法則「仕事の量は、完成のために与えられた時間をすべて満たすまで膨張する」「役人は相互に仕事を作りあう」も、役所の世界だけに当てはまるものではない。これらの言葉を胸に留め、ドラッカーが言うように、勇気を持って「やらなくもよい業務、無駄や余計な作業、意味のない長い会議、多すぎる手続き」などを徹底排除すべきである。逆に言えば、「勇気のないマネジャーの組織で、生産性が向上する可能性はない」ということだ。
新しい「日本的人事論」
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NPO法人・老いの工学研究所 理事長
高齢期の心身の健康や幸福感に関する研究者。暮らす環境や生活スタイルに焦点を当て、単なる体の健康だけでなく、暮らし全体、人生全体という広い視野から、ポジティブになれるたくさんのエビデンスとともに、高齢者にエールを送る講演を行っています。