世界宗教としてのキリスト教の誕生

2017.07.15

ライフ・ソーシャル

世界宗教としてのキリスト教の誕生

純丘曜彰 教授博士
大阪芸術大学 哲学教授

/初期のイエス系諸派は、古いユダヤ教の選民思想と厳格主義の尾を引きずって、公然と社会批判をやらかし、諸族諸民によって虐待殺害された。それが、テルトゥリアヌスの後、善悪是非を論じることは人間の半可知の罪とすることで、愚直・寛容・奉仕を主軸とするキリスト教となり、世界宗教へ脱皮した。しかし、それは教会への依存を常態とし、「暗黒時代」とも呼ばれる凡庸な平和の停滞が七百年に渡って続くことになる。/


現代と中世

 細かなことを言えばいろいろあるが、十字軍の始まる1095年まで、このローマ・カトリック教会の支配の下、およそ七百年にわたって、西ヨーロッパは凡庸な平和を享受することになる。それは、恐ろしいほどの停滞社会であり、後世に「暗黒時代」とも呼ばれるが、しかし、世俗歌などにみられるように、その中でも人々はそれぞれの身上の伝統的な生活を謳歌していた。

 これは日本の江戸時代と、とてもよく似ている。もちろん世の中には、自由で変化に富んだ社会が好きだ、そうでなければ、それは弾圧された監獄だ、という人もいるだろうが、しかし、他方には、安定と平穏を好む人々もいる。どちらが幸福か、など、かんたんには決められまい。

 「暗黒時代」の凡庸な平和が破られて以来、そこから飛び出してきた欧米人によって、世界全体が、この数百年、怒濤の混乱に巻き込まれた。そしていま、欧米は、欧米化した中東・アフリカ・中国・インドから流出する人と物の洪水に苦しめられている。ここにあって、日本は、どっちつかずに、その波間に漂っている。

 世界は、大きな文明の流れで捉えないといけない。にもかかわらず、個々の人々は、自分の狭隘な世界観のみに基づいて他者を裁き、神のように叫ぶ。しかし、それは、むしろ古い独善的な選民思想や厳格主義に回帰してしまっている考え方であり、かえって多くの人々を敵にまわし、かならず虐待殺害のしっぺ返しを引き起こす。

 宗教支配、一党独裁の是非はともかく、全知全能の神に比すれば、人間は不完全。にもかかわらず、思い上がる。言い争って、他の人々まで揉めごとに巻き込もうとする喧噪だらけの世の中より、欺瞞でも愚直・寛容・奉仕で停滞していた中世の「暗黒時代」の方が、どれだけましだったことか、それはそれで、冷静に考えてみよう。


by Univ.-Prof.Dr. Teruaki Georges Sumioka. 大阪芸術大学芸術学部哲学教授、東京大学卒、文学修士(東京大学)、美術博士(東京藝術大学)、元テレビ朝日報道局『朝まで生テレビ!』ブレイン。専門は哲学、メディア文化論。近書に『アマテラスの黄金』などがある。)

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純丘曜彰 教授博士 / 大阪芸術大学 哲学教授

我、何を為すや。忙しさに追われ、自分を見失いがちな日々の中で、先哲古典の言を踏まえ、仕事の生活とは何か、多面的に考察していく思索集。ビジネスニュースとしてシェアメディア INSIGHT NOW! に連載され、livedoor や goo などからもネット配信された珠玉の哲学エッセイを一冊に凝縮。

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純丘曜彰 教授博士

大阪芸術大学 哲学教授

美術博士(東京藝大)、文学修士(東大)。東大卒。テレビ朝日ブレーン として『朝まで生テレビ!』を立ち上げ、東海大学総合経営学部准教授、グーテンベルク大学メディア学部客員教授などを経て現職。

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