ニセモノからホンモノを探る:プラトンの弁証法

画像: photoAC: そい さん

2017.06.06

ライフ・ソーシャル

ニセモノからホンモノを探る:プラトンの弁証法

純丘曜彰 教授博士
大阪芸術大学 哲学教授

/我々は目ではなく心でモノ見る。実物なんか、さっぱり見ていない、味わっていない。実物は、感覚の生じるきっかけにすぎない。実際は、自分の心の中の記憶を再認識しているだけ。しかし、ニセモノがニセモノとして機能するのは、ホンモノの影だから。逆にニセモノを調べれば、我々が真に求めるべき本当のホンモノを知ることができる。/

 こういう仕組みがわかっていると、人を騙しやすい。広告宣伝をガンガン流して、絶賛好評発売中! たちまち重版出来! いまNYのセレブで大人気大流行! と、バカな大衆どもにウソの「経験」を植え付けて洗脳してしまえばいい。そうすると、実物がどうであれ、その実物を見かけると、実際に見えるものではなく、植え付けられた「経験」の方が再現されてしまう。ほら、きみは、黄色いMを見かけただけで、いつも思わず歌う、ぱらっぱっぱっぱー。

 世の中は、こういうインチキな、見かけ倒しのニセモノだらけだ、と、古代ギリシアの哲学者プラトンは喝破した。そういう見せかけだけのニセモノに騙されるな、と、警鐘を鳴らした。だが、彼のすごいのは、そこから先だ。こういうニセモノがニセモノとして機能するのは、それらがまさにホンモノのニセモノだからだ。ニセモノは、ホンモノの影だからこそ、魅力がある。だから、逆にこれらのニセモノをうまく調べれば、そこから我々が真に求めるべき本当のホンモノを知ることができる、と。これを「弁証法」と言う。

 つまり、こうだ。たとえば、作りもののインチキ美談がある。だが、たとえそれ自体はウソでも、みんながそれに惹かれるのは、それが人々の理想の影を反映しているから。つまり、そのニセ話はともかく、その美談の核心こそ我々が理想とするところ。人が人として希求し、実現に努力すべきところ。おいしさでも、かっこよさでも、同じ。現実にあるのは、インチキなニセモノだらけ。でも、それらに我々が魅了されるなら、それらの中心にあるところこそが、我々が現実に実現すべき理想、イデアだ。

 現実に真の理想は存在しなくても、それに似たニセモノに惹かれるというのは、我々は、心の中では真の理想を知っているから。そのニセモノをきっかけに真の理想の方を思い出すから。きみが追い求めるべきは、現実に溢れかえるインチキなニセモノじゃない。それらに惹かれるきみの心は知っている、なにが理想か、を。しかし、それなら、きみ自身がそれを探求して、それをきみが現実に実現しようと努めるべきだ。

by Univ.-Prof.Dr. Teruaki Georges Sumioka. 大阪芸術大学芸術学部哲学教授、東京大学卒、文学修士(東京大学)、美術博士(東京藝術大学)、元テレビ朝日報道局『朝まで生テレビ!』ブレイン。専門は哲学、メディア文化論。近書に『アマテラスの黄金』などがある。)

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純丘曜彰 教授博士

大阪芸術大学 哲学教授

美術博士(東京藝大)、文学修士(東大)。東大卒。テレビ朝日ブレーン として『朝まで生テレビ!』を立ち上げ、東海大学総合経営学部准教授、グーテンベルク大学メディア学部客員教授などを経て現職。

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