14歳から大人まで 生きることの根っこをかんがえる『ふだんの哲学』シリーズ 〈第2章|成長〉第2話
そのように人間は、なにかを決意し、そこに自分を集中させていくことで突き抜けた能力を発揮し、ことを成しとげるわけです。同時にそこには、感動があり、思い出が残ります。けれど、自分をただ野放しにしているだけでは、じゅうぶんな成長も達成も、ましてや感動もえられずに終わる生き方になってしまうでしょう。モンテーニュは多くの人の様子を観察した結果、このような言葉に到達したのです。
人は目標がないと怠けてしまう性質を持っています。自由という名のもとに漫然と過ごすことは、漂流する危険性とつねにとなり合わせです。もちろん、S君が言うように自由にのんびり過ごす時間はとても大切です。その時間のなかで、いろいろなものに触れ、体験し、自分の興味を広げていくことがあるのですから。そこから将来なりたい道を見つけることだってあるかもしれません。だから思うぞんぶん、自由な時間を楽しんでよいのです。
けれど、そのとき頭のなかにつねに置いてほしいのは、自分は「自由という心地のよいソファ」で寝ころがっているだけなのか、それとも「自由という望遠鏡」でなにかを探しだし、「自由という刀」を持ってなにかを彫刻しているのだろうか、という自分への投げかけです。自由というのは2つの使い方があって、1つはただひたっているだけの「消極的自由」。もう1つは縦横無尽に生かす「積極的自由」です。
次に2点めについて。目標というのは自分でかかげるところに大きな意味があります。あなたたちがいま、身につけるべきことのひとつは、なにかへの挑戦を自分に約束し、それをめざしていくことです。達成できれば次の目標を立てる。達成できなければ、目標を見なおして、まためざしていく。そういった「心の習慣」をつけることです。つまり、坂の上に目標となる旗を置き、それをこえていこうとする姿勢をとるのが、ごくふつうのことだと思えるようになることです。
S君は学校から出される宿題や親から言われる手伝いをきっちりやっています。これは基本として大事です。けれど、これらはいわば他人から「与えられた課題」です。やるべきことを自分で設けたものではありません。そのように「与えられた課題」をこなすことだけに慣れてしまうと、自発的に「自分がやりたいこと・めざしたい状態」を描く力が弱くなります。そういう人は、大人になって職業を持つようになっても、つねにやるべき仕事を他人から指示されないとできない状態になってしまいます。だから、もしS君が、言われたことはきちんとやっているのだから、それでじゅうぶんだと思っているのなら、実はじゅうぶんではないのです。
[文:村山 昇|イラスト:サカイシヤスシ]
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キャリア・ポートレート コンサルティング 代表
人財教育コンサルタント・概念工作家。 『プロフェッショナルシップ研修』(一個のプロとしての意識基盤をつくる教育プログラム)はじめ「コンセプチュアル思考研修」、管理職研修、キャリア開発研修などのジャンルで企業内研修を行なう。「働くこと・仕事」の本質をつかむ哲学的なアプローチを志向している。