14歳から大人まで 生きることの根っこをかんがえる『ふだんの哲学』シリーズ 〈第5章|人生〉第6話
さて、あなたが雄大の状況にあったら、今後の人生の方向をどう考えていくでしょう。
失った夢があまりに大きく、挫折が大きいと、「あれほどの夢は見られない。夢を持つのはもうやめよう」という気持ちになるのは無理のないことかもしれません。そのため、適当に就職か進学をして、無難に生きていこうとするかもしれません。それは一つの選択としてあるでしょう。ただ、夢の敗北者として一生悔やみ続けることになるかもしれません。
それに対し、なにか別の山を見つけて新たに歩み出すという生き方もあります。そのとき雄大は決して野球をあきらめる必要はありません。むしろ野球に関連することで別の夢はいくらでも探せるのです。そこで大事になってくるのが、自分の「思い」はなになのかをもう一度しっかり見つめることです。ここで言う「思い」とは、心の奥底からわいてくる願い、誓い、満たしたい意味といったものです。となると、雄大の思いはなんでしょう。プロ野球選手になるという願いのさらに奥にある願いはなんでしょう……。
たとえばそれは「野球とともにある一生を送りたい」「名勝負を生みだすことにかかわることのできる自分でいたい」ということではないでしょうか。そうした根底にある「思い」をレンズにすれば、世の中には新たに目指すべき山がいろいろ見えてきます〈図2〉。
たとえば、グローブやシューズのなどの製品開発にたずさわって「野球道具開発者になる」という山が見えてくる。また、「スポーツトレーナーになる」という山も見えてかもしれません。さらに「野球審判員になる」「スポーツ新聞記者になる」などの山もあるでしょう。そのように、思いを捨てない人の前には、それこそ山は無限に現われてきます。そして、そのどれになるにしても、過去の挫折を乗り越えた自分が生きてくるような内容の仕事ができるでしょう。つまり雄大は、さほど明確な理由をもたずにその職についた人より、はるかに強く思いのこもった仕事ができるはずです。
もちろん、それらの山を登っていくためには、準備を一(いち)から始めなくてはならないでしょう。しかし、その方向性さえ見えていれば、就職するにせよ、大学進学するにせよ、目的意識をもって進むことができます。新たに目指した山の頂上にたどり着くためには、5年かかるかもしれないし、10年かかるかもしれない。回り道も必要かもしれない。けれど、思いのもとに進んでいる自分には強い力がわいてきて、悔いがありません。たとえ長い道のりであっても楽しめるはずです。
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14歳から大人まで 生きることの根っこをかんがえる『ふだんの哲学』
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キャリア・ポートレート コンサルティング 代表
人財教育コンサルタント・概念工作家。 『プロフェッショナルシップ研修』(一個のプロとしての意識基盤をつくる教育プログラム)はじめ「コンセプチュアル思考研修」、管理職研修、キャリア開発研修などのジャンルで企業内研修を行なう。「働くこと・仕事」の本質をつかむ哲学的なアプローチを志向している。