経営再建中の日本航空であるが、8月に東京地裁に提出していた更生計画案では、現在、航空業界で隆盛のLCC(ローコストキャリア)の設立の検討を明記していた。しかし、たとえ別会社形式であろうが、日本航空がLCCに参入したら必ず失敗し、更に迷走することになるのは間違いない。LCCの手法やその背景にあるコストリーダーシップ戦略で不可欠な要素から、その理由(わけ)を明らかにする。
そして、あらゆるものに課金するという発想。
- 飲料、機内食などの機内サービスのみならず、毛布や枕、新聞雑誌類の他にイヤホンや荷物の預かりなど、課金できると思われるものはすべて有料化
- 中には、キャリーオンバッグを確実に機内の荷だなに入れられるよう、指定席制ながら、先に搭乗する権利を販売する航空会社も(実際にその権利を買う乗客もいるのも驚きであるが)
役員人件費すら聖域ではなく、
- 中国など自動車通勤が一般的な国でも役員も含めて地下鉄通勤
- 春秋航空のCEOの年俸260万円+ストックオプションのみ
航空会社の場合、格安では「安い=整備に手抜き、安全面に不安、怖い」というマイナスイメージが連想され、その払拭をしなければならない。春秋航空では、管理職よりもパイロット、整備エンジニア、CAに多くの給料を払いそれを明らかにすることで、安全面の確保とそうしたイメージの打破を図っている。
こうして見れば明らかなように、LCCに限らず、圧倒的な低価格で他社との差別化、競争を勝ち抜くコストリーダーシップ戦略には、他の機能、品質、サービスによる差別化とはまったく逆の発想が必要になる。常にゼロベースで考え、価格を下げるためには、お客様への提供機能・サービスをを削ることも厭わない発想だ。
事業や戦略を検討する際には、お客様の要求に応えよう、少しでも単価を上げようと、ついつい機能・品質・サービスを上げようと考えてしまう。特にそれらが他社が提供しているものなら尚更だ。
コストリーダーシップは、他の戦略に比べて、非常に厳しい競争に晒される。なぜなら、低価格を求めるお客様の評価軸はたいてい価格だけでしかない。つまり、LCCを始め、コストリーダーシップ戦略を取るものは、一目で比較できる価格だけで競争しなければならず、競争の結果は価格比較で一目瞭然のため、最終的にその市場で1社しか生き残れない。インターネットの普及で価格比較が簡単になった現在では、その傾向は尚更だ。
通常の航空会社がLCCに参入するのは、LCCにつきものの「安い、狭い、サービス悪い、怖い」のイメージに引っ張られ、既存のサービスや自社のブランドイメージを毀損するリスクも高い。これでLCC部隊が事故でも起こしたら「やっぱり手抜きをしていた」と厳しい評価に晒されるのは目に見えている。
そうしたリスクを考慮して格安市場には別会社で参入するという方法がよく取られるが、航空業界に限らず、自社か別会社かの参入形態を問わず、既存事業者がコストリーダーシップ市場に戦略転換して参入して、成功した事例は殆どない。コストリーダーシップで成功しているのは、何れの業界でも、コストリーダーシップに最初から狙いを絞り、ビジネスモデル、戦略、オペレーションのあらゆるレベルで無駄なものを削りに削ったオーナー企業がほとんどだ。
次のページコストリーダーシップ戦略は、戦略というより、企業DNA...
続きは会員限定です。無料の読者会員に登録すると続きをお読みいただけます。
- 会員登録 (無料)
- ログインはこちら
週刊 戦略調達
2010.12.10
2010.12.01
2010.11.24
2010.11.17
2010.11.10
2010.11.03
2010.10.27
2010.10.20
2010.10.12
株式会社 戦略調達 代表取締役社長
コスト削減・経費削減のヒントを提供する「週刊 戦略調達」、環境負荷を低減する商品・サービスの開発事例や、それを支えるサプライヤなどを紹介する「環境調達.com」を中心に、開発・調達・購買業務とそのマネジメントのあり方について情報提供していきます