今年に入っての急激な円高に各企業が対応に苦慮している。この円高基調が続くのであれば、日本のメーカは更なる海外調達、海外への生産移転を考えなければならない。そうした企業の海外への生産移転に対して、技術の流出と反対の声が上がっている。難しい挑戦に反対するのは簡単だ。だが、やらなければいけないことを先送りにしていれば、問題は過ぎ去ってくれるだろうか?
日本経済新聞の編集委員 小平龍四郎氏が「『アイワ』を覚えていますか(2010年11月9日 日本経済新聞 14面)」と題するコラムで、最近の円高と企業の海外への移転について批判をしている。
概略は、
「円高はどんどん進む。法人税も高い。政府は当社を日本から追い出しにかかっているとしか思えない。海外移転は資本の論理からして当然である。」と円相場が1ドル=79円75銭の最高値へと上昇基調をたどった1994~95年当時の音響機器メーカのアイワの卯木肇社長の発言からコラムは始まる。
次いで、コラムは、アイワの成功について述べる。「アイワの海外生産比率は当時すでに80%超。」「円高のまっただ中の95年3月期、連結経常利益は179億円まで伸びた。円高の対応の先駆者は転落も早かった。2000年3月期からはAV不況で赤字が3年続き、親会社のソニーが吸収、08年春にアイワブランド製品の販売停止が発表された。」
どうやら小平氏はアイワの凋落を海外展開に求めたいようだ。氏は、「技術やノウハウなど日本に残せるものはきちっと残したい。円高がさらに進めばもう一段の海外展開をせざるをえないが、それは絶対に避けたい(日立製作所の三好崇司副社長)」「下期に1ドル=82円の想定で利益を出すことが、日本でものづくりを死守する条件となる(トヨタ自動車の小澤哲副社長)」と日本でのものづくりを死守しようとうする経営者のコメントを紹介。最後に、「01年にソニー専務からアイワ社長に転じた森本昌義氏は『デジタル家電の技術に通じた人材が数人しかいなかった』現実を前に肝をつぶした。ミニコンポをはじめとするアナログ製品の海外生産にかけたアイワは、半導体やインターネットなど次世代技術を研究する動機に乏しかったのだ。ソニーは『グループ内の低価格ブランドとして生かせないか』と考えたが、技術の空洞化は想定を超えていた」と締めくくっている。
果たして、アイワの凋落は海外展開によるものだろうか?別の理由によるものではないか。このコラムでも、JPモルガン証券株式調査部の北野一チーフストラテジストの「円高に過剰に反応して海外展開を急ぎすぎれば、製品の付加価値を高める企業努力が後手に回りはしないか。」とのコメントを紹介している。
このコラムで北野氏のコメントを取り上げたのは、円高に過剰反応して海外に生産移転するのはよくないと戒めるつもりのようだが、アイワの凋落の原因は、製造の海外移転ではなく、北野氏の指摘するところの「製品の付加価値を高める企業努力」や、AV製品のデジタル化やネットワーク化の波に遅れたことにみられる、お客様に対して、新しい価値を提案する能力を培うことが後手に回ったことによるものと考えられる。
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株式会社 戦略調達 代表取締役社長
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