経営再建中の日本航空であるが、8月に東京地裁に提出していた更生計画案では、現在、航空業界で隆盛のLCC(ローコストキャリア)の設立の検討を明記していた。しかし、たとえ別会社形式であろうが、日本航空がLCCに参入したら必ず失敗し、更に迷走することになるのは間違いない。LCCの手法やその背景にあるコストリーダーシップ戦略で不可欠な要素から、その理由(わけ)を明らかにする。
日本航空(JAL)が8月31日に東京地裁に提出していた更生計画案では、現在、航空業界で隆盛のLCC(ローコストキャリア、格安航空会社)の設立を「今後検討する」と明記していたが、これは前原誠司国土交通大臣(当時)の意向が反映されていたとされる。
率直に言って、現時点では、JALはLCCに参入すべきではない。なぜ前原国交相があの時にJALのLCC参入に固執していたか真意の程は分からないが、LCCは単に価格を下げれば誰でもできるというものではない。
LCCも事業であり、収益を上げていかなければ存続できない。つまり、価格だけでなく、コストもそれに見合った形で引き下げ、損益分岐点を格安の売価に合わせた形で引き下げなければならない。参考までに、LCCがどのような経営努力でその損益分岐点を引き下げているか見てみよう。
まず、削れるものは削るという所で、
- ハブ空港ではなく、着陸料の安い地方空港のみへの乗り入れ
- ボーディングブリッジ(搭乗橋)は使用料がかかるため、駐機場でタラップ(階段)を利用して乗降。空港との間の行き来は徒歩の場合も
- 飛行機(機材)を一機種に統一し、整備マニュアル、スタッフ、部品在庫、必要工具の削減
- ロングフライトでは燃料積載量の問題から別の機種が必要になるため、それらはメガキャリアに任せ、LCCは機内サービスもあまり必要とならない近距離路線に特化
- 航空券はインターネットのみでの直接販売による販売チャネルコストやペーパーレス化によるチケット発行コストの削減
- マイレッジサービスなし
- 座席指定ではなく自由席制を採用し、指定席への割り振り業務を解消
- 機内TVなし
- 日本発着路線でも客室乗務員(キャビンアテンタンド)は日本語を話せる必要はなし
機材の稼働率の向上も損益分岐点に影響する。
- 機材を統一していることもあってか、離着陸間隔が平均30分と大手の1時間に比し半分。この積み重ねにより、少ない機材で便数を増やすことができ、一機材単位の稼働率を向上
- 座席間隔を他社より10cm狭くし、全体で他社の機体より30席多くカスタマイズ。この航空会社のエコノミークラスでは、エコノミー症候群対策のため客室乗務員が手本を示しながら体操を奨励する時間が設けられているほど
- 春秋航空は茨城-上海便を全体の1割にあたる18席限定で片道4,000円の航空券を販売、あわせて8,000~26,000円の計8種類の航空券を用意するなど、破格の値段の限定座席で集客したり、予約日や座席位置によるきめ細かい価格戦略で空席を減少
- 実現には至っていないが、より多くの座席数を確保できる「立ち乗り座席」を検討している航空会社も
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株式会社 戦略調達 代表取締役社長
コスト削減・経費削減のヒントを提供する「週刊 戦略調達」、環境負荷を低減する商品・サービスの開発事例や、それを支えるサプライヤなどを紹介する「環境調達.com」を中心に、開発・調達・購買業務とそのマネジメントのあり方について情報提供していきます