「ワークマン女子」とは何だったのだろう?

画像: ワークマン:ホームページのニュースから

2025.08.23

営業・マーケティング

「ワークマン女子」とは何だったのだろう?

純丘曜彰 教授博士
大阪芸術大学 哲学教授

/むしろ作業服、ロードサイド、無宣伝の従来のワークマンこそ、まさにブルーオーシャン戦略だった。これから日本は人材不足が深刻になり、みんなで協力して働かなければ、現状維持すらできない。工夫すべきことは山のようにある。だが、それがブルーオーシャンかどうかは、わからない。/

ワークマンが、まだ62店舗もある「ワークマン女子」を順次、撤退改装していくそうだ。ほんの5年前、400店舗も新規出店すると豪語していたのが、だ。いったい、あれは何だったのだろう。いずれ多くの研究者がケーススタディとして採り上げるだろう話題だが、いまの時点でわかることをレヴューしておこう。

「ワークマン女子」を手がけたのは、T氏、1952年生まれ。これが、youtuber のSとやらを社外取締役に取り込んで、2020年10月16日に桜木町に初号店を開いた。この前後から、おかしいな、と感じたのは、T氏周辺のはしゃぎっぷりだ。まだ初号店開店から一週間もたたない同年10月21日に、D社から『ワークマン式「しない経営」』という自己提灯本まで出している。サブタイトルは「4000億円の空白市場を切り拓いた秘密」だが、彼が商社からワークマン経営者に縁故で転じたのは、2012年。なのに、早稲田や一橋の教授の「強力」W推薦、5万部突破! テレビで話題沸騰、だとか。おまけに、初号店には、インスタ映えスポットだの、ゆるキャラだのまで設定。

が、当時、2020年1月に、国内でコロナ騒動が始まり、大学の講義もリモート。つまり、彼らが想定した「女子」とやらは、街を出歩いていなかったし、そもそもバイトも消滅して、可処分所得も激減。なんでこんな時に、というのが第一印象。ロードサイドの既存店で充分に採算がとれているのだから、まともなマーケッターなら、この社会情勢にわざわざ、ありもしなくない都心部の「ブルーオーシャン」を狙って強引な業態拡大なんて、ふつうしないだろうに。

たしかに、ワークマンの作業服は低価格高品質で、現場や輸送で実際に働いている女性たちだけでなく、一般F1層でも一部には知られてきていた。が、それは、「港区女子」のようなマーケットリーダーとは対極的で、むしろ世間からすれば変わり者のアウトドア志向の女性たちだった。彼女たちに、大都会、横浜の中心、桜木町のおしゃれビル中で、インスタだ、ゆるキャラだ、などというのは、セグメント分析として、もうむちゃくちゃ。実際、ほとんど彼女たちの話題にもならず、追従マスコミからさえ「ワークマン女子」などという変な造語は消え去った。

もともとワークマンは、1980年にスーパー「いせや(現ベイシア)」の一部門としてできた。これが、スーパー方式の一括仕入、オリジナルOEM商品供給で、地域密着でやっていた作業服屋を一気に圧倒し、ロードサイドのフランチャイズで、バブルの建設ブームに乗って劇的に全国展開してきた。が、2020年ころには、すでに建設資材や輸送価格の高騰、現場労働の人口減少で、市場として天井に達していた。それで、「ブルーオーシャン」どころか、ユニクロやライトオンなどの飽和カジュアル市場を食い散らかしに進出する必要があった。

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純丘曜彰 教授博士

大阪芸術大学 哲学教授

美術博士(東京藝大)、文学修士(東大)。東大卒。テレビ朝日ブレーン として『朝まで生テレビ!』を立ち上げ、東海大学総合経営学部准教授、グーテンベルク大学メディア学部客員教授などを経て現職。

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