/むしろ作業服、ロードサイド、無宣伝の従来のワークマンこそ、まさにブルーオーシャン戦略だった。これから日本は人材不足が深刻になり、みんなで協力して働かなければ、現状維持すらできない。工夫すべきことは山のようにある。だが、それがブルーオーシャンかどうかは、わからない。/
T氏周辺は、やたら「空白市場」とか「ブルーオーシャン戦略」とかいうはやり言葉を使いたがる。これは、低価格競争か高付加価値による差別化を追求し続けるマーケティング教科書の定番、ポーターの『競争の戦略』(1985)に対し、キムとモボルニュが2005年に出した著書に基づく経営思想で、そもそも競争市場から離脱してしまおう、というもの。しかし、「ワークマン女子」が、実際にこの「ブルーオーシャン戦略」を採っていたか、というと、かなり疑問だ。むしろ作業服、ロードサイド、無宣伝の従来のワークマンこそ、まさにそれだった。これに対し、「ワークマン女子」は、これまで市場競争のノウハウも積み上げてきていないドシロウトが、デクノボーのフランチャイジーを引き連れて、ただでさえ飽和崩壊寸前のF1激戦区のレッドオーシャンのド真ん中に、コロナ下でカミカゼ突撃したようなものだ。
なぜこんなおかしなマーケティングが実際に行われ、それをまた、おかしな提灯持ち連中が囃子立てたのか。経営の現場ではよくあることだが、流行語だけが一人歩きして、結局、だれもその意味を消化していない。米国のコンサルファームの連中が典型だが、商社出身のT氏の世代は、ポーターの市場競争哲学、他社に相対的に勝つ、そのためにこざかしい数々の戦術を巡らす、という発想が、骨の髄まで染みついてしまっているのではないか。しかし、当然、他社もまた同じ戦術を駆使するから、いよいよ競争市場は膠着消耗戦にしかならない。
「戦略」と言うからには、実質的には、新規創業だ。もちろん、既存のキャッシュカウの上に乗ってのことだから、ゼロからカネを借り集めて始めるより、ずっと有利だ。しかし、のきなみコンサルファームが傾き、人員減らしをしているように、そこに必要なのは、こざかしい助言ではなく、世界の動向を見極める哲学で、それは手軽にカネで買って手に入れられるものではあるまい。みずから足を泥に漬け、額に汗して、はじめて体得されるものだろう。
わかっていることは、これから日本は、建設でも、輸送でも、サービス業でも、現場の人材不足が深刻になり、男も女も無く、また日本人も、外国人も、とにかくみんなで協力して働かなければ、現状維持すらできない、ということだ。ここにおいて、作業服は、サイズや体型も、いま以上に多様化が求められ、労働環境の快適化、安全基準の厳格化、などなど、工夫すべきことは山のようにある。それがブルーオーシャンかどうかは、わからない。だが、こぎれいな会議室で、口先ばかりの連中が「○○女子」なんて言い方をして、見栄えばかりを追うようなチャラいバブル感覚のロートル・マーケッターたちの出る幕ではない。
純丘曜彰(すみおかてるあき)大阪芸術大学教授(哲学)/美術博士(東京藝術大学)、東京大学卒(インター&文学部哲学科)、元ドイツマインツ大学客員教授(メディア学)、元東海大学総合経営学部准教授、元テレビ朝日報道局ブレーン。
経営
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大阪芸術大学 哲学教授
美術博士(東京藝大)、文学修士(東大)。東大卒。テレビ朝日ブレーン として『朝まで生テレビ!』を立ち上げ、東海大学総合経営学部准教授、グーテンベルク大学メディア学部客員教授などを経て現職。
