私のメンタルヘルス回復体験記(その4)

2008.07.03

ライフ・ソーシャル

私のメンタルヘルス回復体験記(その4)

伊藤 達夫
THOUGHT&INSIGHT株式会社 代表取締役

最近、組織の中でメンタルヘルスに関する関心が高くなってきましたね。私にも、悪化、回復の体験があります。その体験が皆様のお役に立つかはわかりませんが、何かしらの役に立てばいいな、という願いのもと、つらつらと書かせていただきます。

 今日で最終回です。

 企業経営者にとって、メンタルヘルスの問題は大きなリスクになり得るといったことを前回書きましたね。

 では、従業員のメンタルヘルスをよくするには何が大切なのでしょうか?

 それは、ある程度の方針の固定化、経営の安定化です。家業的に小さくやって、みんなのコミュニケーション密度がある程度濃く、忙しくとも楽しい会社ならばいいでしょう。

 ただ、会社が大きくなってしまって、社員が混乱するような環境になってくると、メンタルヘルス的には赤信号です。

 それはなぜか?

 関与する人間の数が増え、役割が細分化した時に、やることの変更が多発すると、無駄になる仕掛り作業が増えます。

 それは、メンタルヘルスに悪影響を与えるんです。

 人間は、意味を求める動物です。自分のやっていることの意味を求めるんですね。

 現代思想においては、こういうことは非常によく議論されてきたことです。意味の無い行動に人間は耐えうるのか?

 チャップリンの「モダンタイムス」でもそう。工場で単純作業をひたすら繰り返すのに耐えられますか?という問いがある。

 カミュの「異邦人」でも、主人公ムルソーの周囲の人々は、ムルソーの行為の社会的意味付けを必死で行います。ムルソー1人が、自分の行為の意味を周囲が規定しようとする行為に、違和感を感じていますけどね。

 人間は、自分の行為に意味を見出さざるを得ない。そういう動物なんですね。

 しかも、どこかの地点から見て、その行為の意味を見出そうとする。その地点は人によって様々ですけどね。

 「シンクロニシティ」という言葉があります。「意味ある偶然」という意味ですね。ある視点から見て、意味ある偶然が重なる時に、使う言葉です。ユングが好んで研究しました。

 これは、なんらかの未来像を描いている時に、よく起きる現象?ですね。求めようとする結果をサポートするような事実が目の前に次々に生じているように見える。あまりに意味ある偶然ではないか!と。

 そして、この状態は非常に気持ちがいいんですね。生じさせようとする結果に対して、サポートするような事実が次々に生じるように見えたら、気持ち良いですよね。神に愛されている気がする。

 未来の絵をリーダーが書き、メンバーは、自分の行為がそれに沿っているように見えるようにする。それは、人のメンタルヘルスを向上させます。シンクロニシティを扱ったリーダーシップの書籍もありますね。 

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伊藤 達夫

THOUGHT&INSIGHT株式会社 代表取締役

THOUGHT&INSIGHT株式会社、代表取締役。認定エグゼクティブコーチ。東京大学文学部卒。コンサルティング会社、専門商社、大学教員などを経て現職。

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